真夜中サマ
こざくら研究会
真夜中サマ
神サマは、それ以来
近くに住んでいた事もあり、良く遊びに行き、一緒に野山を駆け回った。
「
僕は祖母の家で苦手なものがあった。それは夜だ。
山の中の古い家、電気を消せば真っ暗だ。それに、外で風が吹くと、建付けの悪い戸や窓がガタガタと震えた。
祖母の家に泊まった時、長い廊下の先にある、トイレに行くのがとても怖かった。
だから僕は、横で寝ている
怖がりだなぁ、と言われたが、
その神サマを、
僕が小学校に上がる頃、
それでも僕は遊びに行った。一緒に本を読んだり、テレビを見たりして過ごした。また、僕を自身の布団の中に招き入れ、本を読んでくれた。
この頃の
祖母や
実際そうだったのだろう。僕が通い続けられたのは、
だが、僕も歳を重ねると、学校での友達も増えた。また、女の子の家に足繁く通う事に恥ずかしさを覚えた。結果、疎遠になった。
それでも長期の休みには、必ず顔を出すようにはしていた。
小学六年の春、両親に、転勤の為、遠くに引っ越ししなくてはいけないと聞かされた。
布団の上から力ない笑顔を向ける
だけれど僕は、
久し振りによく来たねぇと、祖母や
それから、今日は最後だから、昔みたいに一緒の布団で寝よっか、と言った。
僕は
そうして、ご飯も一緒、お風呂は僕が拒んだ。寝るのも一緒。
寝る時、また悲しくなった。
そんな時、起きてる? 行こうと声がかかった。
「どこへ?」
「真夜中サマの所」
僕はその名前をずっと忘れていた。トイレの帰り道を思い出す。
夢の中でしか会えないんじゃないかと聞くと、本人でなくその神社に行くと言う。
僕達は足音を忍ばせて、家を出た。
不安がる僕に、安全な道を真夜中サマに夢の中で聞いたから大丈夫、と言った。
谷の傾斜に足を踏み出し、腐葉土の上を滑り落ちないように慎重に歩く。着いた先は、巨大な岩の前。そこには地下へと続く黒い穴が口を開けていた。
「ねぇ、止めようよ」
そう言うが、
そこは、まるで玄室のようだった。黒いごつごつした岩で作られた小さな部屋。中央には、平べったい石があり、その上には花冠が二つ、置かれていた。
「ほら、あった」
何がほらだかわからないが、
「ここで、どうするの?」
僕がそう言うと、
「誓いは、神様の前じゃないとダメだから」
僕は何の事かわからず首を
「ずっと、一緒に居てくれるって言ったでしょ」
僕は、ずっとわたしと居てねの言葉に、頷いていた事は憶えていた。でも、もうすぐ引っ越しをするのだ。
「ずっと一緒にわたしと居たい?」
恐る恐る聞いて来たその言葉に、僕は正直に、うんと答えた。
「じゃ、もう一つの約束、結婚しよ」
僕は戸惑った。結婚って何をするんだと。以前、させられたおままごとを思い出し、指輪を交換すればいいのかな、なんて思っていた。
「お互いにお花の冠をかけあうの。そうして永遠の愛を誓うのよ。いいでしょ?」
僕は結婚についてよく知らなかったので、
花冠を手に取り、互いの頭にかけあった。
そうして
「これで何があってもずっと一緒」
僕が、中学に上がり二年の夏、
そして、入れ替わるように手紙が来た。差出人は不明。そこには、崩れた文字で、早く来て。真夜中サマが焼きもち焼いてる。アイツが来ないなら、俺が貰っていくぞって言ってる。だから早く来て、と。
僕は学校を休んだ。何も手が、つけられなくなった。
月日が過ぎ、どうにか入った高校で、二年になった夏、ずっと両親から誘われても行かなかった、祖母の家に行く日がやって来た。祖母が、亡くなったのだ。
両親は僕の事を心配し、辛ければ来なくてもいいと言ったが、行くと言った。
父の車に乗って、祖母の家に着くと、
葬式が終わり、
僕は何時の間にか眠っていたようだ。目を醒ます。
トイレに行きたくなって、あの木製の廊下に踏み出した。廊下の灯りを点ける。黄色い豆電球の光が灯る。
用を済まし帰る時、風が戸を叩く音が聞こえた。そしてその音に混じって、小さな笑い声が聞こえた気がした。
耳を澄ます。また小さな笑い声。
僕は以前この廊下で、聞いた真夜中サマの話を思い出した。
そして
僕は恐ろしいと思うより、
慌てて玄関に向かうと靴を履き、パジャマ姿のまま飛び出した。
月は、照っている。木々の合間を、走り抜ける影を見た気がした。その先は深い谷。あそこだと思った。僕と、
駆ける。足場の悪い腐葉土の地面を、その感触が、木々の中にいる環境が、すべてあの時を思い起こさせた。
そうして岩の見える所まで来た時、白いものが、岩陰にさっと引っ込んだのを認めた。
「
僕は叫んだ。だが返事はない。
黒い穴の所まで行く。
そして僕は聞いた。すすり泣く、声を。その声は、とても懐かしい響きを持っていた。
黒い空間の中で明りがつく。何時か見た懐中電灯の光。懐かしいパジャマ。長い髪、小さな細い背中。
僕はその空間に入り、中央にいるそのか細い背中に手を伸ばした。
「
そう言って、その肩に触れるか触れないかの時に、
灰色に歪んだ皮膚。口はばか見たいに溶け落ちて大きく開いていた。目も、鼻も大きく大きく黒い穴が開いているだけで、その穴や口には、ミルク色の小さな蛆虫たちの塊が詰まって蠢いていた。伸ばした僕の手が
おあああああああ、そんな声だったと思う。洞窟の中を強風が通り過ぎ、音を鳴らすようなそれは、その歪んで顔の半分程の長さに縦に広がった口から発せられた。
引っ張られる。ソレの背後には何処までも続く深淵があり、ソレはそこに落ち、腕を掴まれた僕も、
「何をやっているの!!」
大きな叫び、僕は胸に腕を回され、後ろに引き倒された。
懐中電灯で照らして来る人物は
僕は呆然としていた。何が起こったのかわからない。
「追って来て良かった。こんな所で、何をしているの」
「ここは捜索隊の人に下りて探して貰ったわ。人の隠れられる所はどこにもないわよ」
そんなはずはないと這うようにして穴に近付き、覗き込むと、
そこは落ちたら、ただでは済まなそうな、ゴツゴツとした岩だらけの底だった。だが底は浅く、横道はどこにも見当たらない。
呆然とする僕の肩に、
「さ、帰ろう。
僕はあれから田舎には帰っていない。
真夜中サマ こざくら研究会 @lazu
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