背伸びして 違う私は どう思う?

朝凪 凜

第1話

 日曜日。今日は買い物に出掛ける。幼馴染みの日高ひだか柳児りゅうじを誘って。

 いつもは家に行ってさっさと荷物持ちをしてもらいに出掛けるのだけれど、今日は違うのだ。

 普段からスニーカーばかり履いて、学校でもローファーを履かずに遊び回っているのは思い返すとちょっと恥ずかしいけれど、でも今日は違う。慣れないハイヒールを履いて、膝下まであるオレンジ色の長いワンピース。

 そう、今日はデートなのだ。

 私が勝手にそう思っているだけなのだけれど。

 なので、歩きにくいし歩くの遅くなるだろうから待ち合わせはショッピングモールの入り口にした。


「おそいぞー!」

 入り口近くで待っているとようやく現れた。

「遅いもなにもまだ15分あるじゃんか」

 ゆっくり歩いても間に合うように早めに来た甲斐があった。

「それで陽菜ひなはなんでそんな格好してるんだ。いつもTシャツ短パンなのに」

 キョトンとした顔で見慣れない服だなあ、みたいな雰囲気を醸し出している。

「短パンじゃない! キュロットとかショートパンツ!!」

 せっかくワンピースにしてきたのにこの服装について他に言うことはないのかという憤慨も乗せて怒る。

「分かった分かった。それで、今日は何を見るんだ?」

 適当に流されたのにも腹を立てるけれど、今日はそうではないことを思い出した。

「今日は服を見つつカフェで休憩して服を見ようかなと」

 澄ました顔でそう答えるものの、

「服をそんなに見なくてもいいじゃん」

 明らかに面倒くさそうな顔をされる。

「いいからいいから。それじゃあ行くわよ」


 いつもよりゆっくりと歩いているけれど、周りを見ながらなので、ハイヒールであることには気付いていない様子。

 それからいつものようにあの服かわいいとかこの服だったらあれと一緒に着たいとかそうしていると、丁度前の方にセールのチラシが見えた。

『サマーセール』

 ちょっと早いけれど、もう夏の商品が早売りされているようだった。

 今度はここを見ようと入ると

「水着だな」

 中に入っていくとセールは水着が主のようだった。

 せっかくだからと面白いことを考え、柳児を呼ぶ。

「この水着どうかしらね。似合うんじゃない?」

 セパレートのフリルトップの水着を手に取って訊いてみる。

「ちょうど小さめの胸が隠せていいじゃん」

「小さくないわよ。品があるって言ってちょうだい」

 自分でもあまり大きい方では無いと思うけれど、こいつに小さいと言われると無性に腹が立つ。

 しかし、ストレートに言われるとさすがにちょっと凹む。

 デリカシーがないのは分かっていたから、これ以上何か言っても私が傷つきそうなので、最初の水着を買って店を出る。

「まったくね、女の子にそういうことは言っちゃダメだからね」

「そりゃあ言わないさ、お前だから言えるんだろ」

 それはやはり幼馴染みであって、異性としては見られていないということなのだろうか。分かっていたことではあるけれど、そう言われると肩を落とさざるを得ない。

「じゃあちょっとカフェで休憩でもしようかしらね。さっきのあんたの言った言葉をよく考えて奢りなさいよ!」


 そう言って歩き出すと突然足首が思わぬ方向へ崩れ、倒れてしまった。

「痛たたた……」

 足首をさすってみるけれど、少し痛みがあり捻挫をしたかもしれない。

「大丈夫か?」

 言うと同時にしゃがみ込んで脚を確認する。

「平気平気、ちょっと捻っただけ……いたたたた!」

 柳児が脚を触ると口をついて声が出た。

「ほら、平気じゃないだろ。ほら、背中に乗って」

 すぐにおんぶをする姿勢になるも、

「いいわよ。歩けるから。ちょっと肩を貸してくれれば大丈夫だから」

 この年でおぶられるのはさすがに無理がある。ワンピースなので余計だ。

「そんな意地にならなくても」

「なるわよ! この格好でおぶられるわけないじゃない!」

 つい小声ながらも声を張ってしまって、しまったと思うもどうしようもない。

「あー……そうか。じゃあ痛みが引くまで少し休んでるか。そしたら歩きやすい靴買って帰るか」

 素直に従うのは癪だけど、確かにそれが良いから小さく頷いた。


 しばらく、カフェで痛みが引くまで休憩して、いつものスニーカーを買い――いや、買って貰い、行きのハイヒールよりもゆっくりと帰る。

 結局デートは失敗だし、色々と迷惑は掛けたと思っているし、私の想いには気付かれないままだったけど、それで良い。今くらいの関係でいいのだ。私にはひかえめな恋が性に合っている。

 また、今度デートのやり直しをしようと心に決めた。

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