第60話 「あわわっ。呂布に勝てるわけないだろ……」

 呂布は、長安の皇城を攻撃するにあたり、長安の兵器工場を押さえて、衝車や雲梯といった攻城用の兵器を持ち出させていた。

 皇城を城と見立てて、全力で城攻めをする勢いを見せたのである。

 呂布は、一般兵卒の軍装を脱ぎ捨てて、自らの愛用する煌びやかな鎧に着替え、さらに、自身の代名詞といってよい、方天画戟を構え、赤兎馬に跨って、長安の皇城の南端の城門、朱雀門に押し寄せた。

 朱雀門をはじめ、長安の皇城の城門は、外郭の城門同様に、城壁の上に弓兵、弩兵が並べられるほどの強固な造りになっている。

 既に、反乱軍側、つまり、胡赤児配下の兵士が弓や弩を構えて立ち並んでいる。

 呂布は彼らの前に姿を現すと、一喝した。

「謀反人ども! 貴様らを成敗するために、この呂布が自ら軍を率いて戻ってきた! 俺がここにいるということは、李傕、郭汜らのたくらみは失敗したということだ! 降伏するなら今のうちだぞ! 」

 董卓軍において、呂布が最強の武将であることは、董卓軍に属するものであれば、末端の兵士でさえ知っていることである。

 その呂布が今、軍を率いて、長安の皇城を落とそうとしている。

「あわわっ。呂布に勝てるわけないだろ……」

「な、何で、俺たちが、呂将軍と戦わないといけないんだ……」

 胡赤児配下の兵士たちは、呂布の威風堂々たる姿を目にして、大いに動揺した。

 弓矢や弩を構える手をブルブルと震わせるものが続出する。

 胡赤児が駆けつけたのはそんな折である。城壁に駆けあがると、震えるばかりで応戦する気もなさそうな兵士を捕まえると、ボコボコと殴りつけた。殴られた兵士が、白目をむいて昏倒する。

「バカ野郎! たとえ、呂布だろうと矢で集中攻撃すれば、殺せるだろうが! 問答無用で、矢を浴びせろ! 殴られたいのか! 」

 胡赤児の一喝に、兵士たちは気を取り直す。

「呂布を射殺せ! 」

 誰かが号令を発すると同時に、兵士たちが一斉に呂布を目がけて矢を放った。

 何十本もの矢が一気に呂布の体に飛び込む!

 しかし、呂布は全く意に介していなかった。

 呂布には、自らを目がけて放たれた何十本もの矢のすべてを見極めていた。

 兵士たちが放った矢は合計108本。

 そのうち、自分に当たる矢はわずか18本。その他の矢は自分の体にはかすりもしない。と見たのである。

「練度の低い弓兵どもめ! 」

 呂布は、右手に持った方天画戟を風車のごとく振り回す。

 自らに当たる可能性のあった18本の矢のすべてが、方天画戟の柄に弾かれて、砕け散った。

 同時に、城壁の兵士の一人が、

「うっ……」

 とうめき声を漏らして倒れた。呂布を射殺せ! と号令を発した兵士だ。

 その兵士の喉には、矢が刺さっている。即死である。

 その様子を目にした兵士の間に動揺が走る。

 呂布が率いる部隊は、一人として弓矢を放って応戦していない。

 胡赤児が率いる城壁の兵士が、弓矢を放っただけである。もちろん、呂布も方天画戟で矢を防いだだけのはず。

 一体、矢はどこから飛んできたのか!

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董卓英雄伝説 董卓は極悪人ではなく仁政を行い漢王朝を復興した義士だった shikokutan(寝そべり族) @shikokutan

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