告りタイムは真夜中に

DITinoue(上楽竜文)

告りタイムは真夜中に in.野良犬

 あの日の出会いは、ほぼ奇跡と言っていいものだった。

半年前の夜、近くの河川敷に捨てられ、階段を転げ落ちた、僕。お昼には、何が起こったか分からずに、河川敷にうずくまっていた。

しばらく、考えた。僕は何でこんなところにいるのかと。そして、数分で悟ったのだ。これからは、飼い犬ではなく、野良犬として生きていかねばならないということ。


 夕方になると、なんとなく状況は理解できた。誰かに助けてもらおうという本能が働いて、人里へ出て行った。が、車が行きかう道はどうしても怖い。テレビで、車にひかれた動物の亡き骸は何度も見たことがあるから、恐怖で足がすくんだ。仕方なく、河川敷に戻ることにした。だが、幸運があって、バーベキューをしている家族に近づいた。子供は「カワイイ、飼いたい」と言ってくれたけど、大人が「ダメだ。野良犬なんか買ったら病気が移る」と言ったので、置き去りにされていった。


 次の日まで、僕は街をさまよった。だが、助けを差し伸べる手は依然としてなかった。

僕は、サバイバル生活を強いられた。食品廃棄物を盗ってきたり、弱った魚を捕ったりして、ギリギリの生活を続けた。


 その夜だった。

「クゥーンクゥーン」

寂しくて、悲しくてついつい夜吠えしてしまう。

この生活はいつまで続くのかな。僕はここまま死んじゃうのかな?と、いつものように最期の妄想をしていた時に――


「クゥーンクゥーン」

さっきの僕と同じような声がした。誰かいる――SOSを求めている誰かがいるんだ。助けずにはいられず、聴覚を研ぎ澄ませて、声のする方へ向かった。


五分ほど探し回ると、水際のギリギリに僕と同じくらいの年齢の犬がいた。

「クゥーンクゥーン」

水にぬれたのか、震えていた。

「キャンキャン!!」


助けが来たぞと、声をかけた。相手はわずかに目を開いて、首を上下した。

僕は、野生の本能で水を切ってやり、毛づくろいをしてやった。水を切った相手の毛はとてもキレイでつやつやだった。


「キャンキャン!」

相手は元気を取り戻した。鳴き声からすると女の子だ。

スリスリ

助けてくれてありがとうと言うように、彼女は顔を擦りつけてきた。

スリスリスリ

コチラこそというつもりで、僕も彼女の顔にスリスリした。


僕は、この時に初恋を予感した――


 あれから、半年。依然として助けは来ない。それどころか、長い間の野良犬生活で毛並みは荒れ、どんどん不潔となっていき、助けを差し伸べる人はさらに少なくなってきた。

でも、私は平気だ。サバイバルの生活にはもう慣れたし、心強い男の子のパートナーがいる。私は、あの日に彼に好印象を受けた。恋の予感がビビっときたのは、あれから二日後だった。このまま別れても、得にはならない。一緒に暮らそうと私の方から話しかけた。相手は笑顔で「いいよ」と言ってくれた。私は彼のことが好きになった。


今日は二人で一緒に川に入って魚を捕った。野生の勘が蘇ってきて、魚捕りはもう楽勝だ。これまでは弱ってる魚しか捕らなかったが、今は潜水して元気な魚を捕ることができる。それが、健康にも影響しているのだ。


「キャンキャン!」

「キャンキャンキャン!!」

「キャンキャン」

「キャン!!」

私は高い声で彼とおしゃべりしながら食事をとる。食べたら、少しお昼寝して、食後の運動に鬼ごっこだ。以前は、また別の野良犬ちゃんとも仲良くなって、一緒に鬼ごっこをしていた。今はどこにいるのだろう。元気でいるといいな。


 夜、私たちは自分たちでこしらえた、わらの布団に入った。竹林の中に置いていて、カラスなどには見つからない。

「キャン・・・・・キャンキャン」

私は、眠そうに言った。

「キャンキャン」

彼は、優しくおやすみと言ってくれる。


彼の悲鳴が聞こえたのは深夜だっただろうか。異常事態に私は飛び起きた。

「キャイーンキャンキャン!!!!グルルルル」

彼は怒っていた。一瞬私に起こったのかと思ったが、それは違った。

「ミャァオ。ミャー・・・・・シャァァァァ!!!!」

野良猫だ。私たちの天敵だ。

二人の別種の男はにらみ合いを続けている。

「グルルルルル」

「シャァァァァ」

二匹はぐるぐると回っている。


「ミャァァァァ!!!!!!」

ネコが彼に襲い掛かった。それは、私に背中を向けたということだ。彼と取っ組み合いをしているネコに、私は攻撃を入れた。

シャッ!

爪で背中をひっかいたのだ。

「キャン!!」

彼の声はナイスと言ったように聞こえた。

そのまま、彼はネコの脇腹に噛みついた。私も足に食らいついた。


「ミャァァァ!!!!シャァァァ!!」

ネコは甲高い声を上げた。そのまま、チッと一喝するように、一度振り向き、私たちを一睨みしてから去っていった。


 戦いを終えて。。居場所を移動した僕らは暗闇の中起きていた。やつが臭いを付けてくるかもしれないと思い、交代で見張りをしていた。交代時間になり、彼女が目を覚ますと、まず言いたいことがあった。

「キャイン、キャンキャンキャン!!」

助けてくれてありがとう。彼はそう言ってくれた。

「キャンキャンキャンキャン!キャインキャイン」

彼女も、おかげで助かった、無事でよかったと返してくれた。


双方の言いたいことはこれだけじゃなかった。

「キャンキャン・・・・・キャ」

「キャンキャン・・・・・キャキャイン」

二人ともが、恥ずかしそうに顔を赤くした。今回が伝えるチャンスだ。これを逃せば次はいつになるか分からない。


「「キャキャキャンキャンイン僕と・私と付き合ってください」」


それは、この野良犬の、真っ暗闇での告白だった。決意をした声で、二人は口をそろえた。そして、お互いビックリした表情を浮かべたが、すぐに笑みに変わった。


「「インキャインキャンキャンキャン!!もちろんよろしくお願いします」」


僕は、達成感を感じた。彼女と出会って半年。念願がかなったのだ。気づけば両思いだったらしいことが何よりも嬉しかった。

私は、さらなる幸せを予感した。第六感がそう告げていた。これから幸せになれると。私のお腹から子供が出てくるのがとても楽しみだ。


 いつも通り、河川敷で昼寝をしていた時に、誰かに声をかけられた。言語は聞き覚えがあるが、声は誰か分からない。

「君たちは、野良犬なのかい?」

僕の“元”飼い主のようなおじさんが立っていた。

「カップルなのかしら。元々なのかな?」

私を捨てた“憎き”飼い主のようなお姉さんが言った。

二人とも、この人間たちには好印象を抱かなかったが、次の言葉で少しだけ変わった。


「君たち、これまでいろいろあって大変だったんだね。いきさつは話さなくてもいい。心無き飼い主が家族を追放する。それはおかしなことだ。僕たちが預かってやろう」


それは、この苦しいけど、少し楽しい生活を止めていいよということだった。少しさびしさもあるけれど、せっかくのいい話を逃す者はいないだろう。

「キャンキャン!!」

「キャンキャン!!」

やったねと私たちは喜んだ。


それから、二匹は車に乗せられた。車の中で話を聞いた。

「僕たちは、保護施設の人間なんだ。野良犬や野良猫を預かる施設に勤めている。心無き人間に追い出された子たちを救いたいという思いで、家族を探しているんだ。君たちはどっちがいい?このまま僕らに飼われるか、新しい家族と会うか。ただ、新しい家族を探すとなると、二人が生き別れになる可能性がある」

二人の答えを自分の思い通りに進めるように、おじさんは言った。次の言葉を言おうと、お姉さんが口を開く寸前、二匹は言った。

キャンキャンキャン!!あなたたちに飼ってもらいたい。家族になってください

犬語が分かったのか、お姉さんはコクリとうなずいた。車は、自宅の方へ方向転換した。


家には、飼育道具が揃えてあった。

僕らは早速、ふかふかのソファに飛び込んだ。

ソファの上を私たちは転げまわった。

「すっかり、おしどり夫婦ね」

オシドリがどう関係あるのかは知らないが、良い言葉なのだろうと思った。

そして、僕たち、私たちは願っていたこれをした。


チュッ♡


「「あ!!!!」」

二人の人間はそろって声を上げた。

「ファーストキスね!!ドラマチック~♬」

人間が思うかはどうでもいいことだ。これは、“僕たち・私たちだけの愛の誓い”だったから。二匹の愛は誰にも邪魔させない。

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告りタイムは真夜中に DITinoue(上楽竜文) @ditinoue555

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