真夜中ラジオ
夕藤さわな
第1話
小さい頃から夕飯はお母さんと二人きりだった。
お父さんが帰ってくるのは朝の三時頃で、それからお風呂に入って布団に入るのが四時頃。私の起床時間は熟睡中。朝ご飯を食べて、支度をして、家を出る時も熟睡中。んで、私が部活を終えて帰ってくる頃にはお父さんは仕事に出かけてる。
ときどき家の前で玄関を飛び出してきたお父さんと鉢合わせることもあるけど、そういうときは遅刻寸前。
「おかえりー! 行ってくるよー!」
と、叫びながら駅へと走って行ってしまう。
土日もやれ結婚式だ、なんかのパーティだと出かけているし……そう考えると夜も朝も昼も、お父さんといっしょにご飯を食べたことなんてないかもしれない。
だから――。
『日付はとっくに変わって二十五時。平日のこんな真夜中に起きてる悪い子は誰かなぁ?』
「悪い子じゃなくて切羽詰まった受験生さんですよー」
『なになに~? まだ寝るつもりはないってぇ?』
「模試の結果がやばかったですからねぇ。寝るつもりはないっていうか寝てる場合じゃないっつうかぁ」
『まったく仕方がないなぁ。ではでは引き続き、ビーバー伊東がお相手! 次のリクエスト曲は……』
お父さんの陽気で、ちょっとカッコつけた声に続いて流行りの曲が流れ始めた。
「お父さんの声を聞きながらご飯を食べるって……なんだかすっごく不思議な気分」
くすりと笑って私は夜食のラーメンをすすった。
渋くてカッコイイ声なんて世間では言われてるけど、うちのお父さん、ただの太ったおっさんだよ?
真夜中に流れるこのラジオを聞いてる人たちはわかってんのかな、なぁんて思いながら。
真夜中ラジオ 夕藤さわな @sawana
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます