猫の手を借りた

aciaクキ

第1話

 僕は最近、日記を書くということを知った。だから近くに来た人に、日記がほしいっていったら、数日後にペンと一緒にくれたよ。

 優しい人もいるもんだよね。さて、じゃあ日記を書こうか。


◇◆◇◆


 僕は昔から頭が悪く、本当にバカで、要領も悪くて、何をするも失敗していた。

 多くの人は失敗することは悪いことじゃないってよく言うけど、何かを試して人に言えるほどの成功をした経験は全くの一度もない。強いて言うなら、言語を覚えることや、言葉を喋ること、あとは生きることとかだろうか。

 まあ、そういうのを成功しているというのかわからないけど、今の僕にはそれくらいしか思いつかない。


 ある日僕は、一つの言葉を覚えることに成功した。他の人にとっちゃとても小さなもので、取るに足らないものだと思うが、僕にとってはこれも成功の一つだと思いたい。

 その言葉というのが、『猫の手も借りたい』って言葉なんだ。ちょっといい言葉だろう?痺れないかい?

 僕はこの言葉を聞いてビビッと来たね。何て面白い言葉なんだってね。


 僕が困ってるときに、猫の手も借りたいぐらいだよって言ったらさ、なんと色んなのが手助けしてくれたんだ。別に僕はそんなに好かれたりとか、助けてくれるような人じゃなかったから、びっくりしたよ。

 やっぱりみんな、頼られることが好きなんだなって勝手にだけど思っちゃった。


 けど助けられた身分であんまりこういうことは言いたくないんだけど、正直助けてもらう前のほうが上手く言ってたかなって思っちゃったんだ。

 もちろんそういうことは言ってないよ。ただ、自分でもできないし、頼っても上手く行かないって、どうしたらいいんだろうって思うんだ。


 だから、僕は親に相談してみたんだ。そしたらなんか凄い怒られちゃってさ。もうどうすりゃいいんだよと思うんだ。


 親ったら最初、なんか凄い慌ててさ、なんでそんなバタバタしてるんだろって不思議に思ったよ。


 そこから少ししてさ、大量の猫が死んじゃってるのが見つかって、近所ではめちゃくちゃ騒ぎになってたなぁ。

 さすがの異常事態に警察も出てきてさ、僕の家にも事情聴取?ってので警察が来てさ、色々質問された後に結局僕が悪いって言われて今ここにいるんだ。


 何が悪かったんだろ。僕はなんにも悪いことしてないはずなのになぁ。


 猫の手を借りただけです


って言っただけなんだけど、それがまずかったのかな?わかんないや。


 ちゃんと借りたものは返したし。まぁ、元に戻すのはちょっと大変だったけどさ。


 そういえばさ、猫って四つ足あるじゃん。そのうちの前にある二つの足って前足って言うんだって。

 人間で考えたら、そこの二つの足って完全に手じゃん。やっぱり猫の手を借りるには足だと意味わからないじゃん?手じゃないとさ。


 だから、困ったときに猫の前足っていうか、まあ手を切り離して、使ってたんだけど、上手く扱えないから自分でやった方がマシなときがあるんだよねぇ。

 で、使い終わった手はちゃんと持ち主に返す。ポイントは、切り離しちゃったから縫い付けるところだね。


 やっぱり借りたものは元に戻しておかないと、礼儀ってものがあるじゃん。そういうのってやっぱ大事だと思うんだよね。


 そうだ、僕がいる場所もちゃんと書いておかないとね。ここはね、薄暗い牢屋さ。

 理不尽に捕まっちゃったから、ここを出たら訴えてやるためにね、なんてね。僕にそんな勇気なんて無いよ。


 僕がここから出ても、普通に生活するよ。だって僕、悪いことなんて何一つしてないんだし。

 

 でも、猫ちゃんたちどうしちゃったんだろうね。足縫い付けて元通りにしたらまた動くようになると思ったんだけど。

 ま、まさか、誰かが殺したのか!?もしそうなら許されたもんじゃないね。やり返してあげたいぐらいだよ!まったく。


◇◆◇◆


 ふぅ、ま、とりあえずはこれぐらいかな。日記だし、毎日書いたほうがいいかな。いつここから出れるかわかんないし、ここ出るまで書き続けよっかな。



 [パタンと冊子を閉じた青年は、手に持ったものを離した]



 そういえば僕ってまだ成功できてないことってあるんだよね。それは文字を書くことなんだ。言葉を覚えて喋れても、まだ書けないんだよね。やっぱり困ったら猫の手よりも、人の手を借りた方がやりやすいよね。

 ふう、疲れた。あれ、もう寝ちゃったのかな?



 [青年は同じ牢屋に収容されている女性の頭をなでる。ここ数日でかなり仲良くなったが、手を借りてからはずっと寝ているようだった]



 僕がここから出るときには返すから安心して。おやすみなさい。



 [青年は、暗がりの中右手の無い女性の頭を撫で、抱き着くようにして眠りについた]

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