いとしのまいひーろー。
メイルストロム
私だけの、英雄さま
──
気紛れに理由なく、衝動的に他を害して生きろと教え込まれて生きてきました。だからいつかヒーローと言うものに出会うのだろうと、心のどこかでぼんやりと思っていたのです。
私が戦うのはどんなヒーローなのか、とてもワクワクしていました。なのでいつしか私の行動は如何にしてヒーローを呼び出すか、その一点を追い求めるようになっていたのですよ。
そうしてより多くのヒーローと出会うために私は色々やりまして、結果として効率よくヒーローを呼び出す方法をいくつか知りました。
まず、民間人の多い場所で派手な一撃をかますの。
でもね、ただぶっ壊すだけじゃ駄目。民間人はなるべく殺さずにしないといけないし人質にとるのも駄目なのよ。それらはみーんな負けフラグになるからね。
それに私達は
──Not ther be carnegie!
まぁ悪役にも色々な主義主張はあるからね。あくまでもそれは私のポリシーで、私がするのは枷からの解放だけだもの。
私は上流階級って言われている人面獣心の豚どもをね、適度に痛め付けて吊し上げるの。そうすれば虐げられてきた一般市民達が、吊るされた豚を勝手に貪り喰らい尽くす。
貴方達が言うヒーローは私のような悪役を潰すために奔走するけど、絶つべき悪は爆発的に加速度的に増えていくわ!
──潰すべき悪が増えて大変よねぇ、ヒーローも。
だけど貴方達は
「なにを笑っていやがる、ムンナ」
「あら、笑っていました?
ごめんなさいねぇ、ちょっと想い人の事を考えてたので」
足元に転がる派手な衣装の自称ヒーロー。マスクのせいで素顔は見えないけれど、別にどうってことないわ。こんなに弱いヒーローなんて興味はないし、私からすればただの民間人レベルだもの。
「早く来てくれないかなぁ、待ち遠しいなぁ」
「お前は……なにを待っている?」
「やぁねぇ、あの人の事よ」
「……誰の事、だ」
「最強のヒーロー、ユースティティアだよぉ」
──あぁ、名前を呼ぶだけでゾクゾクしてしまう。
五年前に初めて出会った、唯一私が手も足もでなかったヒーロー。私が唯一認めている最強のヒーロー様、私が心の底から愛しているたった一人の大英雄。
「私はねぇ、ユースティティア様を愛しているんだ」
「愛している?」
「そうだよぅ……今だって会いたくて会いたくて会いたくて会いたくて堪らない、今すぐにでも
「愛している……お前は、なにをいっているんだ──っ?!」
心底理解出来ない、とでも言いたげな声音で漏らした自称ヒーローを蹴飛ばしていたらしい。ちょっと転がった後に凄い勢いで噎せているけど自業自得だよ、お前がそんな事を言うのが悪い。
「……愛と勇気の正義のヒーローを気取る君がそれを聞くのって滑稽だね。
いいよ、彼が来るまでの間の暇潰しに教えて上げる──」
転がるヒーロー気取りの胸ぐらを掴み上げて、しっかりと私の方を向かせる。だって人から教えられる時はちゃんと相手を見ないと失礼でしょう?
「──愛情ってさぁ、相手に向ける強い感情の事でしょ?
だからね、憎しみとか妬みとか殺意とかも愛情の一つなんだと思うのです。君達は私のような
私を潰す……ううん、しっかりと、殺す為に拳を振るってくれた。あの時の事が忘れられなくて、ずっとずっと再会できる日を待ち望んでいるんだよ。わかるかい?」
返事はないし、ガタガタ歯を震わせるなんて本っ当に格好だけの駄目ヒーロー。おまけに漏らすなんて痛々しいコスプレ一般人かよ。
「けど──現れるのは君のようなヒーロー気取りの一般人ばかり」
──どうして彼は来てくれないのかな?
──どうしてなのかなぁ?
──私は貴方をこんなにも愛しているのに。
──こんなにも深く深く深く待ち望んでいるのに!!
「──そこまでだ、ムンナ!」
倒壊しかけたビル屋上から飛び降りてきたのは、白銀に輝くスーツに身を包んだ韋丈夫。私が待ち望んでいた相手──
「あはっ、来てくれたんだねユースティティア!
私だけのヒーロー!」
全身全霊で貴方の
もっともっと、深く私を
──マイヒーロー?
いとしのまいひーろー。 メイルストロム @siranui999
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