文学とは媚びないこと。

シチュエーションや会話を頭の中で組み立てて、自分だけしか知り得ないハズのそのイメージを他人の頭の中に再構築させる。説明文は冗長になり過ぎないように、でも、同じく日本語を扱う者には、その無駄を省いた文章で、物語の世界観を生き生きと、もしくはまざまざと伝わるように。

世の流行などに迎合したらば、その行為は大抵凡庸になり、鮮やかさを失い、頭の中にあった時には煌めいていた美しさがくすんでしまう。おそらく文章とはそういうもので、文学と呼ばれる物語が世の流行に迎合して生まれる事は稀有だ。

それはきっと、どうしようもないヒトの業を書き上げる事が、文学とは切っても切れない関係にあるからだろう。

日本の戦後の空気感をまるで知らない若い世代にも、この物語の世界観と人の業は伝わるだろう。人の業が確かな温度と湿り気をまとって、この作品には描かれているのだから。

良い作品です。是非ご一読願いたい。