KAC20225 88歳は米寿って言うんだよ

Syu.n.

その犯行の動機

「警部!また同様の手口です!!」


「またか・・・くそ!!」


「警部」と呼ばれた男は、怒りを露わにする。

その怒りの感情は、表現方法に個人差はあれどここにいる皆が感じているであろう。警察署の一角に臨時で割り当てられたこの部屋には、「KAC市連続殺人事件捜査本部」と言う表札がつけられていた。


「被害者は「一波 仁」(いっぱ じん)、男性です。死因は特定中ですが、おそらく、後頭部を鈍器と思われるもので殴られたものと思われます。」


「・・・その鈍器らしきものは見つかったか?」


「いえ、今のところ・・」


「つまり、「KAC市連続殺人事件」と同じということか・・」


警部は自分の机の席に座り、頭を抱えた。


「これまでの4人の被害者との接点は?」


「それも今のところ・・・」


「・・・・・・」


警部はこれまでに何度も見た、「KAC市連続殺人事件」に該当する可能性が高い被害者の名前を思い返す。発生順に、

「二階堂 小手一」(にかいどう こていち)男性

「四宮 翔子」(しのみや しょうこ)女性

「十六夜 絹」(いざよい きぬ)女性

「三田 幸太郎」(みた こうたろう)男性

そして今回の「一波 仁」。


死因が全て「後頭部を(おそらく同じ)鈍器と思われるもので殴られる」である以上、同一犯だろう。この情報は公開していないので模倣犯の可能性も低い。

怨恨の線が高いと思われるが、被害者の交友関係を見る限り、共通点は皆無だった。強いて言えばいずれも「KAC市在住」。まぁだから「KAC市連続殺人事件」と名付けられた訳だが。そしてもう一つ挙げるとすれば、


「考えたくはないが・・・まさか苗字の番号でやってないよな・・」


「もしそうだとしたら、後10人は被害者の出る可能性が・・」


二、四、十六、三、一。

もし犯人が猟奇犯で、被害者の名字についた数字だけ殺そうと考えているなら、十六と言う数字は驚異の他ない。


「煮詰まっているようだな?」


突然声を掛けられ、警部と部下はその声の方を向く。


「あ、あなたは、未楽流(みらくる)警視!」


そう。そこには警視庁きっての刑事、未楽流警視が立っていた。


「未楽流警視。ご協力いただけるのですか?」


「俺はこの捜査本部責任者に嫌われているから、「手出しはするな」と言われてたんだが、流石に5人となるとね。」


未楽流警視は、被害者の一覧を一目見るや、


「・・・これは、ひょっとしたら」


思いついたことはあるが言いにくそうな顔で、警部を見る。どんなことでも意見の欲しい警部は、真摯に尋ねる。


「・・何か気づかれたことがありますか?」


「被害者の共通点だけど、おそらくは「88歳」だ。」


「はっ?」


警部とその部下は慌てて被害者一覧を確認する。


「・・・たしかに最初の被害者「二階堂 小手一」と3番目の被害者「十六夜 絹」は88歳と同じです。が、残りの3人は20代~60代と全く異なりますが」


「・・いや、同じ可能性がある。被害者の服装を見て」


改めて見るも、警部はわからない。同じ情報を持つ部下も首を振った。


「すみません。詳しく説明してください。」


「88歳は「米寿」って言うんだよ」


「米寿?」


「米寿・・・あ、まさか!?」


まだ合点がいかない部下と対照的に、何かに気づいたのか警部は被害者の服装をよく確認する。


「ま、まさか・・・」


「うん。俺も素っ頓狂な考えかもとは思うけど・・」



・・・・・それから数日後。


「KAC市連続殺人事件」の犯人と思われる人物が逮捕される。決め手は部屋に隠し持っていた大きめのハンマーから出たルミノール反応だ。

五人目の被害者が出た時点から考えれば、かなりのスピード解決である。もちろん、6人目の被害者は出なかった。


「・・・でもまさか、あんな理由で人を殺してしまうなんて」


「・・殺人者の心理を突き止めたとしても、理解してはいけない。そんな感じの事件でしたね・・・」


事件の解決まで至ったとはいえ、その動機に警部と部下、おそらく他の捜査関係者も暗澹たる気持ちにならざるを得ないだろう。


「まさか犯人の殺害動機が「88歳」。つまり「米寿」と「ベージュの服を着た」人物が許せないからだったなんて・・・」

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KAC20225 88歳は米寿って言うんだよ Syu.n. @bunb3

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