八十八歳の恋

西紀貫之

八十八歳の恋

「八十八歳って、いい歳だオイ。俺まだ二十歳だぜ」

「いや、名前が『八十八歳』。読みはベージュ」

「名前が八十八歳べえじゅ、だと……?」

「年齢はこのまえ女子校卒業の18歳。俺が話したりしてたが、見せた写真で一目惚れらしい」

「合! 法! 十! 代!」


 成人年齢は引き下げられております。

 梅は咲いたか? 桜はまだかいな。こんな俺にも春がやってきました!


「ちなみにこれがベージュの写真。クォーターだってさ」

「あ、髪が金髪に近い薄茶色。ベージュやん。胸でっかそう」

「胸は88ある」

「ベージュやん」

「ヒップも88」

「ベージュやん」

「下着の色もベージュが好きらしい」

「そこは流石におばちゃんっぽいな」


 いやまて、「大事なウエストサイズ飛ばしただろう」とチラ見すると、悪友は観念して「88並びじゃないから飛ばしただけさ。60らしい」と苦笑。


感激かんれきものじゃん」

「ちなみにこれがおかあさん。ハーフらしい。今年40歳」

「四十にして不惑まどもわぜる


 美人だった。なんでむすめの体操服着てるの? いや、自前の? しかし、なんかそういう施設のプロフ写真みたい。金取られそう。


「え、ほんとにこの子が俺に一目惚れ? 恋? 付き合いたいって? マジで?」

「お母さんじゃなくベージュちゃんのほうな。しかしそうなんだよ、ぜひお前と付き合いたい、結婚したいって」

「そりゃまたなんで?」

「お前の名字が欲しいとさ」


 俺の名字? 『九十九つくも』が俺の名字だ。八十八歳のインパクトに負けて言い出しにくかったが、俺の名字もそれなりである。


「いきなり結婚って。おれまだ大学生だし」

「学校の制服はみんなとってあるそうだよ」

「ぜひ結婚を前提にお付き合いしたいです」


 さっそくOKの返事を送って貰い、あれよあれよと結婚。

 名字だなんだのは一目惚れの照れ隠しのあれやこれやだったのだろうと思ってたが、なんやかんやいろいろあったらしい。


 だが彼女はその秘密は、けっして墓場まで……はくまい。

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八十八歳の恋 西紀貫之 @nishikino_t

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