たとえ誰にも届かなくても、思いは常にそこにある

硬くも柔らかな文体と独特な言い回しの絶妙な配合によって紡がれる、一話完結のとある人物たちの思いや記憶の残滓。
完全な読者依存ではなく、少しばかりのヒントと情念が、人物たちの背景を紐解く鍵となります。
そして、そこから導き出される多岐にわたる解釈は、読者の心を掴んで離さないでしょう。読んで楽しむ、考察で楽しむの二つを同時に、楽しむことができます。
抽象的な内容を読者にどう魅せる、読み取らせるのかを熟知した作者の巧みな技法には脱帽です。

物思いに耽るように、内容に没頭したい人におすすめの一作です。