第3話 ひと皿の冒険

 楽しそうに話すウタドリ先生があどけなく見えて僕は思わず微笑んだ。

「真珠、見つかりましたか?」

「いや、見つからない。私は玉ねぎのピクルスの代わりにラッキョウを刻んで入れたんだ。玉ねぎのピクルスよりラッキョウの方が好きだったからなんだけど、そのせいかな、と思ったりもした。でも、あの女性の言葉によると重要なのはライム果汁の方だってことだし。それにラッキョウと玉ねぎは近い種の野菜だからね。日本の味で勝負するのも大事かな、と思って」

 ウタドリ先生がミルクティーのグラスを揺らすと、氷がカラカラと細かく鳴った。


 風が窓から入ってきた。この季節の風は何というのだろうか。薫風には少し早い。

 緑風という言葉があることを僕は思い出していた。


「その、二人の女性一体何だったんでしょうね」

 僕が問いを呟くとウタドリ先生は、ふふふっとまた笑っていった。

「それは私も考えたよ。ライムの妖精?ライムの魔女?それとも真珠の魔女かな?ベビーリーフミックスの魔女かもしれない。人間ではなかった気がしてならないんだ」

 ウタドリ先生はそう言うとミルクティーをゴクリと飲んだ。

「ともかく、彼女たちのお蔭で私は宝探しの冒険を毎日できるようになったんだ」

「サンドイッチに真珠がある可能性を知ってしまったからですね」

今度は僕がふふふと笑った。

「僕も小さいころ、宝探しに憧れました」

「私は今でも探し続けているよ。お昼時にね」

「同じものを食べていれば、僕でも追い求められるかもしれない」


 “緑風”が窓から入って反対側の窓へ通り抜けていく。


「これが私が昼食にあのサンドイッチを必ず食べるわけさ」

そういうと、ウタドリ先生はニヤッと笑顔になり、右側の口角をあげた。


                               終

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ライムと真珠 肥後妙子 @higotaeko

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