夏浅し ふたりの距離は 机ひとつ

今福シノ

放課後、教室で

「そういえばよっちゃんと田端たばたくん、無事付き合えたんだって」


「へー、よかったじゃん」

「よっちゃん、すごい喜んでたよー。圭樹よしきのおかげだって」

「いや、俺はなんもしてないって。その田端って男子と少し話しただけだよ」

「それがすごいんじゃん。それだけで田端くんがよっちゃんのこと気になってるって見抜いたんでしょ? さすがは愛の伝道師だね」

「人に変な二つ名をつけるな」

「だって中学のときからずっとだよ? 男子も女子もいろんな人に相談されてさー。これで何組目のカップル成立?」

「さあな、そんなの数えてないし」


「ほんと得意だよねー。いつもどうやってるの?」

「どうって言われてもなあ。ただ普通に話してるだけだよ。テクニックとかコツがあるわけじゃないし」

「なおさらすごいじゃん。あれでしょ、シースルーセンス」

灯里あかり。それを言うならシックスセンス。第六感だろ」

「あ、そうそう。それそれ」

「お前なあ……」


「もういっそのこと恋愛相談所でも開いたら?」

「やるわけないだろ」

「えー、流行はやるよ。お金とれるレベルだって。そしたら私も助手でやとってもらってー、将来安泰あんたい、みたいな?」

「あほか。いいから口を動かす前に手を動かせ。さっきからノート真っ白のままだぞ」

「しょーがないじゃん。よっちゃんもこれで夏休みはデートしまくりだろうし、うらやましいのー」

「灯里にはその夏休みもやってこないかもしれないけどな」

「ひっどーい」

「ひどいのはお前の点数だ。このままだと追試だけじゃ済まないぞ」

「んもー、圭樹せんせーは厳しいなあ」

「そんなことあるか。こうして追試対策につきあってやってるんだ。ありがたく思えよ」

「はーい」


「……」

「……」

「てか何お前、好きな人とかいたのか」

「お、なになに? 圭樹から話ふってくるなんて。もしかして気になっちゃう?」

「いや別に」

「ええー、そっちから訊いといてー?」

「幼なじみとして心配してるだけだよ」

「心配って、私が悪い男にひっかかっちゃうとか?」

「違う。こんなおバカなやつにちゃんと彼氏ができるか、ってこと」

「ちょ、毒舌きついってば」

「きつくもなるだろ。昔から知ってるんだし」


「まあとりあえずさ。ものは試しに当ててみてよ」

「なにを?」

「私の好きな人」

「はあ?」

「これだけ毎日しゃべってるんだから、愛の伝道師ならわかるでしょ?」

「だから違うってば」

「いーからいーから」


「……」

「……」

「わかったー?」

「いや……わからないな」

「えー、うそだあー」

「ほんとだって。所詮しょせん俺のカンに過ぎないんだから」

「おっかしいなー。ほかの人はあれだけ的中させてるのに」

「そんな都合よくわかるもんでもないってことだよ。それじゃあ俺、ちょっと顧問の先生のところ行ってくるから」

「夏休みに合宿なんだったっけ。いいなーテニス部はーお出かけできて」

「そんないいものじゃないぞ。朝昼晩と練習漬けだし」

「ふーん」

「とにかく、俺が戻ってくるまでちゃんと問題進めとけよ? サボったら泣きを見るのは灯里だからな?」

「はーい」



 ――……。

 ……。


「……意気地いくじなし」


 くるくると、シャーペンをまわす。


「ほんとはわかってるくせに」


 こっちはわかってるんだぞ?


「まっ、でもいいか。夏休みはこれからだし」


 夕方になっても涼しくならないこの季節は、けだるさと同時に心をどきどきさせてくる。


「どこ連れてってもらおっかなー。このかんじだと、来週の花火大会あたりで観念して告白してくるかな」


 ま、私の勘だけどね。

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