いつか訪れる結末に向けて

尾八原ジュージ

わたしたち

 堀くんに初めて会ったとき、「いつかこの人を殺すんだろうな」と思った。

 あとで聞いたら堀くんもわたしを初めて見たとき、「いつかこの子に殺されるな」とピンときたらしい。

 どうして、と言われても、お互い説明ができない。ただ理屈を超えた感覚で、わたしは堀くんをいつか殺してしまうし、堀くんはわたしに殺されてしまうということがわかるのだ。

 そのことだけはもう、ふたりの間で決まっている。


 わたしと堀くんが一緒に暮らし始めて、もう二年近くが経とうとしている。

 みんなはわたしたちを「ベストカップル」だと思っている。でも、わたしたちの間にあるのは「このひとを殺すんだろうな」と「このひとに殺されるんだろうな」というふたつの確信なのだ。それ故にわたしは彼を信頼しているし、彼もわたしを信頼している。自分の片割れを見つけたみたいに、わたしたちは許されるかぎり一緒に過ごす。

 いつか殺すはずの堀くんといっしょにいるのは、とても心地よい。

 洗濯機のスイッチを入れて、洗剤の香りを嗅ぎながらもう一度ひとつのベッドに潜り込む休日の朝。堀くんの心臓の音を聞きながら、この音が聞こえているかぎり、わたしは死なないのだと思うと安心する。

 なぜなら、掘くんを殺すのはわたしと決まっているのだから。

「昼、どうする?」

 わたしの髪を指先で弄びながら、堀くんが尋ねる。

「何か買いにいこうか」

 わたしは堀くんの心臓あたりに左耳を当てて、そう答える。

 わたしはいつか堀くんを殺すけれど、それは今ではない。そのことを、理屈ではない何かの力で、わたしはちゃんと知っている。

 堀くんも、わたしに殺されるのは今ではないということを、ちゃんと悟っている。だから、わたしたちはとても安心していることができる。

 予期していた結末が、いつかわたしたちの上に訪れるまで。


 わたしはまぶたを閉じて、わたしの髪をいじる堀くんの指の動きを感じながら、もう一度とろとろと眠る。

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