鬼胎・安泰骸骨絡(きたいあんたいほねがらみ)

雄蛾灯

第1話

お‼ いらっしゃい、今日も新しい顔だね。


まぁ、ちょっとの間だけど、ゆっくりしてってよ。僕の名前は河津。来てるお客さんには、河津さんって呼んでねって毎回言ってるんだけど、皆ここに一回しか来ないんだよね。だから、常連さんと呼べるヒトが誰もいないんだ。やっぱいくら繁盛してても、顔見知りってヒトがいないと悲しいもんだよ。


あっ、ごめん‼自分語りしちゃって。急に語りだしちゃって怖かったでしょ? また、俺の悪い癖がでちゃったなぁ。


え、何も怖くないから大丈夫? それならよかったよ。じゃあ、自分語りついでに俺の小話をきいておくれよ。あんま時間は取らせないから大丈夫だって。それにここに来るってことはキミもどうせ暇だろうし。じゃあ、本題に入ろうか。


突然だけど、キミは安心できる場所にいると、「安心」以外何を感じる?



きっと答えはタンマリあるだろうけど、どれも漠然としたもののはず。


どうだい? 改めて聞かれると曖昧な答えしか出ないだろう?


 じゃあ逆に、怖い場所に来た時に「恐怖」以外にはどういう感情が生まれたりする?


暗い・狭い・嫌悪・孤独・寒い・気持ち悪い……。


ほら、どんどん頭に浮かべられるでしょ? 人間、良い感情よりも負の感情の方が記憶に残りやすいのさ。


どうしてそうなるのかって? 断言できないけど、その二つを突き詰めるとさ「安心」は「生」に、「恐怖」は「死」になるじゃん?


例えばだけど、生きる希望が見つからないカワイソーな奴、常日頃死にたいってほざく人生ツマンナソーな奴、愛さなきゃ死んでやるって彼氏に迷惑ばかりかけるキモチワリー奴も、実際に行動に移すやつなんて一握りじゃん?


何でだと思う?


答えは簡単、怖いんだよ。ビビってるのさ。どんなに人生真っ暗闇な馬鹿でも死ぬことに対して無意識のブレーキがある。


キミだって「生きる理由」を答えられなくても、「死にたくない理由」ぐらい答えられるだろ? それがいい証拠さ。


こんなしょうもないこと、頭カラッポのキミは気にしたことなかったろ? 生物ってのは恐怖を連想させるものを本能的に、無意識に避けてるってこと。


だけど、これはキミたち人間だけの話じゃなくて、生命全般の話で「恐怖」即ち「死」を恐れてるんだよ。


いくら「始まり」が起こったとしてもたどり着くのは「終わり」、生命で言えば「死」なのさ。陰と陽、表と裏の関係、どちらかが欠けてしまったらそれはもう生命ではないね。だってさ、迷路ってスタートがあってもゴールがなかったら迷路って言えないじゃん?


そもそも迷路って出口が無くても入り口さえあれば、スタートとゴールは兼ねられるようになってるから成立するんだよ。


「始まり」があってこその「終わり」、「生」があってこその「死」といったような表裏一体の関係によって物事は構築されてく。だからこそ、「安心」といった感情があってこそ「恐怖」っていう感情が成立すると思うんだよ。人間が安心を感じてる時ってのは、恐怖がある上で成り立つってコト。


とするとさ、ヒトは生まれた瞬間、母親のもとで安心にも似た感情を抱いた時点で、死という終わり、恐怖を植え付けられてるのかもしれないね。


まぁまぁ、そんなヘンな顔しないでって。仮の話だよ、仮の話。でもさ、よくよく考えるとヒトの身体にも恐怖の影響がでてるのさ。


キミさ、首だけ動かして後ろを振り向いてごらん。左右どちらでもいいけどさ、どうあがいたって頭の真後ろに振り向けないだろう?


それはね、ヒトの身体が真後ろに恐怖しているんだと俺は思うんだよ。だってさ、別に怖くないなら向けるはずなのにさ、自分の力じゃどうしても振り向けないじゃん? 後ろに目がついてるわけでもないからね。後ろから攻撃されたら何もできないのに、どうしてこうもヒトって後ろに対してこうも無防備なんだろうね。安心してるからなのかな。


え? じゃあ自力で真後ろを向いたらどうなるんだって? 確かに恐怖は無くなるかもね。でもそれって、恐怖以前にヒトで無くなるんじゃないかな。よく恐怖を感じないヒトはいないって根拠もなく言う輩がいるけど、そもそも恐怖を感じなかったらヒトではなくそれは死者じゃないかと僕は思うんだよ。


そうだね、死者は「恐怖」も「安心」も感じないから、この二つの相互関係から抜け出すのか。悪いね、そこの部分に関してはあんまり詳しく言えなくて。ていうか、それだったらキミの方が詳しいんじゃないの? 僕はもう気が付いたときからずっとここに居座ってたからさ。あっ、そういえば聞きたかったんだけど


ねぇ、

キミは「恐怖」と「安心」を感じるの?


河津がそう尋ねるとと客は姿を消した。

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鬼胎・安泰骸骨絡(きたいあんたいほねがらみ) 雄蛾灯 @yomogi_monster

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