好き

lager

推し活

「え、待って。今の何分? いや何秒?」

「一人一分ジャストだよ。計二分」

「あの、さ。その権利を獲得するためにあなたが支払った金額、いくらって言ったっけ?」

「十七万」

「誇らしげに……」


 職場の同僚は韓流アイドルオタクだ。

 先日の有休で何してたのかと聞くと、推しのメンバーとビデオ通話するチケットが当たったので、ホテルの部屋を一日借り切ったとのことだった。

 今、その時の録画映像を見せてもらったのだ。


 横断幕に、手作りプリントTシャツに、高性能PC、そして照明セットまで完備し、その二分間に全精力を注いだ同僚は、それはもう満足気だった。

 前々から、「今回のカムバ(注:カムバック。新曲発売の意)はガチだからね。配信齧りついてたよ」とか、「これ、〇〇君がこの前の配信で着てたのと同じブランドなの~」とか、嬉々として自分の推し活を語ってくるこの同僚の話には驚かされていたが、今回はまた一段と凄い。


 メンバーをイメージして作ったアクセサリーを購入すると、ビデオ通話のチケットのがもらえるとのことだったのだ。

 彼女はやった。

 自分に許された財源のギリギリを突込み、見事その権利を獲得したのだ。


「お金大丈夫?」

「だいじょばない。でもいいの。それが私の、生きる意味だから……」

「そっか」


 人の趣味にケチはつけまい。

 それに、僕だって……。


「君は好きなものとかないの?」

「内緒」


 そうやって、推しを語ってる、キラキラした笑顔の、君が好き。

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