二刀流の弟子

寝る犬

二刀流の弟子

 祖父は一刀流の開祖だった。

 道場で最も強いものに流派を継がせるという方針のもと、一人娘であった母は今の父と所帯を持ち、私が生まれた。

 父は祖父の剣術に独自の工夫を加え、新しい二刀流へと進化させた。


 圧倒的な強さだった。

 子供だった私の知っている父は、すべてのものをなぎ倒すような、まさに暴風のような剣の使い手だった。


 しかし、私が成人を迎える頃には、そんな父もやがて年老いてゆく。

 祖父の姿が重なる。

 ある日父は、腰に差した二振りの打刀うちがたなに手を載せ、こう言った。


「この道場で最も強いものに流派を継がせる」


 その日から、道場内の空気は一変した。

 父の二刀流を極めんとするもの、初心に戻り、一刀流の技を磨くもの、そして、あのときの父と同様に、新たなる技を加えるもの……。


 私は父に隠れ、独自に練習してきたあの技をついにお披露目する時が来たのだと、心を浮き立たせた。

 私達の使う二刀流は、もともとが戦場で使われる古武術であり、剣術はもちろん、槍、弓、無手での戦いから、水泳法、料理法に至るまで、総合的な『戦』の技術を磨くための流派だ。


 決められた試しの日。

 門弟たちは次々に打ち負かされ、あるものは道場を去り、あるものは座して次の師範の誕生を待つ。

 やがてすべての門弟は壁際に控え、最後に残ったのは私一人となった。


「こい。息子だとて容赦はせぬ」


 父の前へ進み出た私は両手に打刀を、そして兜の飾りの代わりに脇差を付けた姿で挑む。

 三刀流。これが私の出した答えだった。

 苦戦はしたが、なんとか父に打ち勝ち、私は道場を継ぐ。

 美しい嫁ももらい、嫡男にも恵まれた。


 道場は賑わい、生活も楽になる。


――しかし、私には一つ心配なことがある。

 5つになった息子が、近所の子供とちゃんばらごっこをしている際、両手両足に1本ずつ、計4本の刀を使っているのを見てしまったのだ。

 息子が元服するまでまだ時間はある。

 私は門下生の一人に4本の打刀をもたせ、戦う練習に明け暮れるのだった。


――了

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

二刀流の弟子 寝る犬 @neru-inu

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ