災厄と救いの勇者(セルフトラブルシューター)マシューの苦悩

安崎依代@『比翼は連理を望まない』発売!

聖剣と魔剣、両方から使い手認定された俺は、実質最強のはずですよね?

 東洋には『矛盾』という言葉があるらしい。何でも貫く最強の矛と、どんな攻撃でも防ぐ最強の盾が同時に存在したら、どっちかは嘘っぱちでそんな状況は存在し得ない、ということを言う言葉らしい。


 さて、ここで問題だ。


 魔王さえ仕留める聖剣と、世界を終わらせることができる魔剣。『聖』と『邪』、それぞれ最強の武器が一同に会したら、一体どうなるか。


『『答えは簡単!!』』


 うなだれた俺の左右から、清らかな天使のような声とドスが効いた悪魔のような声で同じ言葉が飛んでくる。


『『ビックリ武器同士、意気投合!!』』

「いや、何でそうなるんだよっ!?」


 俺は思わず全力でツッコんだ。そんな俺に周囲がギョッと視線を向けてからぎこちなく目をそらしていく。


 そりゃそうだ……。こんなガタイのいい男が食堂で独り言なんて叫んだら、こうなるわな……。


『マシューよ、我らの声はお前にしか聞こえておらぬのだから、今のような反応は良くないぞ』

『そうよ、マシュー。目立つのは良くないわ』

「んじゃもう黙っててくれませんかね? 俺のためにも」


 今度は周囲に聞かれないように気をつけながら、俺は椅子の左右に立てかけるように置いた二振りの剣……聖剣『エクスカテイン』と魔剣『レーヴァンター』に囁いた。だがいかにも『ただの剣です!』みたいな顔をした二振りはお喋りをやめてはくれない。……いや、元々こいつらは剣なわけだから、顔があるわけではないんだが。


『それは承服しかねる』

『せっかくレア武器同士が一緒に旅をすることになったんですもの! こんな機会滅多にないわ。お喋りしたいじゃない!』

「あんたら、壊れるまで寿命無限大なわけだろ? だったら俺が天寿をまっとうした後にでも存分に語り倒してくれよ……」

『我らはいつ戦いの中で果てるとも知れぬ剣の身』

『明日やろうはバカ野郎って、極東の名言にあるじゃない』

「いや、知らねぇよ……」


 どうしてこんなことになったのか、俺の人生の分岐点はどこだったのか、考えてもいまだに分からない。


『一刀流より二刀流の方が数が多い分強いに違いない!』と考えて二刀流を学び、ひょんなことから勇者選抜試験に紛れ込んでしまい、うっかり聖剣を抜いてしまって勇者になってしまった所を、純粋培養勇者として育てられた青年に逆恨みされて、魔物の巣窟に放り込まれた先でうっかり魔剣も拾ってしまい、『二刀流? ちょうどいいな。もう片方の手が空いておるではないか』という実に適当な理由で使い手認定された辺りまでは、一応平凡な人生だったんだよな?


『いや、なぜそれが平凡扱いになるのだ?』

『数が多いから二刀流の方が強いだろうって……マシューにも立派に厨二病時代があったのね』

『いや普通に一刀流の使い手に対して失礼だろうが。謝りなさい』

『聖剣であるわたくしが抜けた時点で、貴方はもう平凡ではないと思うのだけれど』

『そもそも、我らの存在を抜きに考えても、お前の二刀流はすでに「平凡」の域を抜けておるわ』

『そうよね。普通の人間は剣が二振り同時に扱えるからって、ただの鋼の剣で単身でドラゴンが狩れるわけではないのよ?』

『お前、最近巷で「聖邪二刀流」とか呼ばれておるらしいが、我らに出会う前は「ソロドラゴン狩りのマシュー」などと呼ばれておったらしいではないか』

『まったく平凡などではないわね』


 ……もうマジで黙ってくれませんか? そのどっちも痛い呼び名で呼ばれたくないんだよ……。


 俺の心境など一切構わず、聖剣と魔剣は仲良く『ねー!』などと意気投合してやがる。


 いや、お前ら……。場合によっては最終局面でそれぞれの軍勢のトップ同士に握られて、どちらかが折れるまで熱いバトルを繰り広げるような宿敵同士なんじゃねぇの? なに意気投合しちゃってんの? 俺は魔王を打ち倒しに行けばいいのか世界を壊しゃいいのかどっちなの?


『ひとまずはドラゴンを狩ってガッポリ儲けた後、今宵の宿を手に入れようではないか!』


 俺の内心など二振りには筒抜けだ。筒抜けなら筒抜けでおもんぱかってくれりゃいいのに、元が武器であるせいか二振りとも思考がナナメ上に向かってぶっ飛んでやがる。


『獲物は呼んでおいたぞ!』


 魔剣がホクホクした顔……いや声でそう言った瞬間、食堂の外を突風が吹き抜ける音が響いた。何やら人々の悲鳴と『ドラゴンだ!』『逃げろっ!! ドラゴンが出たぞーっ!!』という叫び声まで聞こえてくる。


『我が獲物を呼び』

『わたくしの力で狩る』

『『あっという間に一攫千金!!』』

「いや、なんっっっでそうなんだよっ!?」


 俺は二振りを引っ掴むと慌てて外へ出る。突風から顔を庇いながら空を見上げれば、真っ黒な巨体のドラゴンが火を吹きながら上空を旋回している所だった。


 うわぁぁぁっ!! 俺の連れのせいで町の平穏をおびやかしてすんませんっ!!


『さぁ、きっちり責任を果たそうではないか、マシュー!』

『腕が鳴るわね! マシュー!』

「だからテメェら、頼むから大人しくしてろぉぉぉぉっ!!」




 聖剣『エクスカテイン』と魔剣『レーヴァンター』を従えし稀代の二刀流剣士、マシュー。


 行く先々でトラブルを引き起こしながらも全てをきっちり独力で始末をつけていく彼に『災厄と救いの勇者セルフトラブルシューター』という二つ名が付けられていることを、今のマシューは知らないのであった。




【END】

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