二刀流と呼ばないで

烏川 ハル

二刀流と呼ばないで

   

 同窓会で久しぶりに出会った田中は、プロのサッカー選手になっていた。

「へえ、すごいなあ」

 私は学生時代から運動が苦手だ。でも自分には出来ないからこそテレビで野球中継を見るのが大好きであり、スポーツ選手に対する憧れもあった。

 野球とサッカーという違いこそあれ、素直に田中を尊敬する。


「田中の凄いのはそれだけじゃないぜ。あいつ、フォワードもゴールキーパーも両方やってるんだって!」

「さすが田中だなあ!」

 と、興奮気味に語っている者たちの声も聞こえてきた。野球で言えば、投手ピッチャーとしても打者バッターとしても活躍している、というような話なのだろう。

 そう理解した上で、私も田中に話しかける。

「聞いたよ、田中。サッカーで二刀流の選手なんだって?」

 ところが田中は、ムスッとした表情を見せた。

「『二刀流』なんて呼んでほしくないな。俺は刀みたいな棒っきれは使わん。サッカーなんだから『二足の草鞋』と言ってくれ」


 なるほど、野球にはバットという「刀みたいな棒っきれ」の道具があり、だから『二刀流』と呼ばれるのだ。ならば、足が大事なサッカーにおいては、刀より草鞋の方が連想されやすく、確かに『二足の草鞋』という言い回しが相応しい……。

 そう納得しかけたところで、ふと思った。

 フォワードはともかく、ゴールキーパーは足よりも手を使うのではないだろうか?

 そもそも野球でも、打者バッターが使うのはバット――「刀みたいな棒っきれ」――だが、投手ピッチャーは違う。なぜ投手ピッチャー打者バッターの両立は『二刀流』と呼ばれるのだろう?


 私が軽く混乱している間に、既に田中は、別の友人たちと話し始めていた。キラキラした笑顔を浮かべているので、かなり盛り上がっているようだ。

 とりあえず私は、手にしたビールを飲み干し、再び話しかける機会を窺うのだった。




(「二刀流と呼ばないで」完)

   

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二刀流と呼ばないで 烏川 ハル @haru_karasugawa

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