2点目  「腐男子と腐女子の出会い…?」  【3/18(金)】

 これは、私たちが腐バレした時のお話。

 まだ「サキちゃん」が新人だった時のことです。入ってきてからまだ一ヶ月とか二ヶ月とかの頃だったかな。

 夜も更け、店内のお客様もまばらになってきた頃。私たち二人は、作業をしながら少し世間話をしていました。たぶん恋愛話とか趣味の話とかそんな他愛もない話をしていたんだと思います。その後のサキちゃんの一言があまりに衝撃的すぎて、何の話をしていたかまでは覚えてないです(笑)

 「タカハシさんって、BLのキャラだったら確実に受けですよね」

 空気が凍り付く、というのはまさにこのような状況を指すのでしょう。

 (え、今この子何て言った……?)

 サキちゃんの突拍子もない一言に、私は完全に思考停止状態。

 「……俺が、BL?」

 とりあえずサキちゃんの発言の真意を知りたいと思い、少し探りを入れようと考えたのです。今思い返せば、何とも愚かな考えです。

 「タカハシさんそういうの大丈夫な人だと思って」

 「え、何でまた?」

 私はサキちゃんのその手の話をしたことなんてないはずなのに。

 あまり考えたくはないですが、そうなると考えられる可能性は一つ。

 (え、もしかしてだけど腐バレしてる⁉)

 こういう時の推測というのは、たいてい当たるものなのです。推測よりも悪い形で。

 「え、だってタカハシさん、この間休憩の時BL読んでたじゃないですか」

 「えっ…、何でそれを」

 全てを打ち砕くような、ぐうの音も出ないサキちゃんの一言。

 もうこうなったら言い逃れのしようがありません。

 念のために申し開きしておきますと、私も腐男子の嗜みとして当然ブックカバーはつけております。

 (いつ見られたんだろ?)

 サキちゃんは私が訊く前に私の言いたいことを察したようでした。

 「覚えてないですか? 私あの時荷物取りに後ろ通ったじゃないですか」

 「あー、あの時に」

 そういえばそんなこともあった気がするような……。

 「私後ろ通る時声かけましたよ。反応してくれなかったけど」

 「そうだったっけ?」

 「そんな夢中になって何読んでるのかなぁー、ってチラッと見たら思いっきりBがLしてる場面でー」

 「あーそれはそれは」

 さすがにこれは恥ずかしすぎる!

 穴があったら入りたい。というか、自分から穴掘って埋まりにいきたい。

 私のメンタルはもう瀕死状態……。

 きっと私の顔は真っ赤になっていたはずです。

 「マジでスミマセン」

 もう先輩としての威厳もへったくれもあったもんじゃありません。

 「いや別に大丈夫ですよ。読んでたものが意外すぎてビックリしたけど」 

 「てかさ、俺がBL読んでたこと驚かないんだね」

 「うん、まぁ、別に。タカハシさんなら何か納得」

 「サキさんは読まないの?」

 「昔女友達が持ってたのを読ませてもらったことあるけど……」

 「そういうの好き?」

 「まぁ」

 (おぉ、これは…)

 私は勝手に同志を得たような気でいました。それと同時に、バレたのがこの人でよかったと心から安堵していました。

 「今は読んでないの?」

 「うん」

 「いい作品いっぱいあるから試しに読んでみなよ」

 「何かオススメあります?」

 「今度貸すから読んでみなよ」

 腐女子予備軍だったサキちゃんが、際限のない「沼」へと一歩踏み出した瞬間でした。

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