童心に帰りながら、“大人”が楽しむ事ができる硬派なダークファンタジー!

 とある難攻不落の城塞が落城したことによって動き出す、とある大陸での出来事を具に描いた作品。



 私含め、これを読んだ方全員が魅力として感じるのが世界観——というよりは、もう、世界そのものでしょう。
 人、大陸、国についてはもちろんのこと単位、詠唱、果ては言語まで…。1から“文化”を作り上げたような、圧倒的な重厚感は他作品とは比べ物にならないでしょう。

 硬派な文体で描かれる物語は特定の人物を主人公とするのではなく、複数の“場面”に注目して描かれます。もちろん主要なキャラクターは存在しますが、主人公というよりは主役という方が的確な気もします。その点、物語ならではの没入感を味わう、というよりは世界を俯瞰しながら盤上で動き回るキャラクターたちを観測しているような、それこそゲームのような感覚になりました。

 こうなると大抵の場合、退屈な内容になって目が滑りがちなものですが、上記にあるように、土台となる世界が1から作り上げられているためか、彼ら彼女らが躍動するようにその異世界を“生きている”。
 その一挙手一投足が現実に生きる私にとって新鮮で、訴えかけてくるようです。

 そこには世界構築とともに、戦闘・心理描写の繊細さが関係しているような気がします。本作の1つの見どころである魔術はもちろん、一兵卒が振るう剣の一太刀に至るまでが丁寧に、過不足なく描かれている。テンポやくどさを感じさせないその絶妙な塩梅は、素晴らしいの一言に尽きるように感じました。

 それら全てが合わさることで、俯瞰的に見ていた異世界に魅せられ、いつのまにか引き込まれているわけです。
 戦闘で興奮し、知略と謎に翻弄され、その世界に生きる人々の動き全てをついつい目で追ってしまう。そこには間違いなく人の生き様があって、上述と矛盾するようですが、やはりこの作品もきちんと『物語』を描く、素敵な作品でした。



 もしあなたが現実とは違う、自分の知らない世界——『異世界』を楽しむことが異世界ファンタジーの醍醐味とするなら、まさしく本作がオススメ。
 ゼロから世界を知っていく高揚感。ゲームに近いあの感覚…。そしていつの間にか物語に没入し、時間を忘れる。
 大人が心だけ“あの頃”に戻りながら、同時に大人として楽しむことのできる異世界ダークファンタジー。間違いなく、傑作です!

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