個性と重厚さに溢れた世界。そして少年はいつか友を撃つ。

蒸気噴き出し灰が舞う地下都市。革命軍の一員としても錬金術師としてもイマイチで引っ込み思案な少年『アオ』は、ひょんなことから『ケージー』という男と出逢う。飄々としながらも明るさと強かさを持つケージーに憧れの感情を抱きつつ、アオは『ホムンクルス製造』という禁忌に手を染める友人『ユーエン』には恐怖を抱くようになり――。

一章六幕の冒頭まで読了しました。
スチームパンクSFファンタジーといった内容の舞台設定で、色々な作品やジャンルの要素を取り入れつつ、それをオリジナルの世界として再構築し、個性ある物語として出力している部分が、最大の特徴かつ見所な作品です。
1ページどころか一行ごとにこだわって練られており、時間と労力をかけて書いたのだろうなと感じられる文章もお見事です。作風にマッチした重厚さに溢れ、それでいてテンポの良い軽快さや読みやすさもあり、言い回しや表現においては多くの執筆者が参考にできるほど高水準だと思いました。
登場人物達の個性もそれぞれ立っており、人間的な弱さや優しさや温もりを描きつつ、一方で人間の黒い部分や醜さ・狂気を際立たせている点でも、高い実力を感じます。ユーエンやギロティナなどは『強烈』とも呼べるほど個性的で、強く印象に残りましたね。
そして個人的に何よりも素晴らしいと感じたのは、プロローグの使い方です。言ってしまえば『友人に銃口を向けるだけのシーン』なのですが、本編を読んでいくと「この気弱なアオが、どういう流れや決意で、冒頭のシーンへと繋がっていくのだろうか……」と気になって仕方なくなり、どんどん読み進めてしまいました。
意味深ではあるけれど、そこまで記憶や印象に残らず、何なら「別に読まなくても問題なかったな」と感じてしまうようなプロローグも多い中で、本作の序章は作品全体へ効果的な役割をシッカリ果たしており、見習いたいと思うほどでした。

おそらくは六幕時点でもまだ序盤~前半なのでしょうが、それでも「世界観・設定・キャラ・ストーリー展開・文章力、全てのパラメーターにおいて優れている作品だ」と感じることできます。
しかし『世界観』の要素において、『土台や基礎』の部分だけが曖昧なのは、どうしてだろうかと非常に気になりました。
あらすじでザックリ語られてはいるものの、なぜ人々がこの場所で住むことになったのか、蒸気ボイラーや貨物船が存在する世界における『錬金術』とはどういう位置付けなのか、政治体制や区画の規模、民衆の階層分けの基準などなど、根本的な部分で「どういう世界なのか」が見えてこなかったです。
そこは今後語られるかもしれませんが、舞台設定における最初の最初のスタートが霧に包まれているため気になってしまい、せっかくの魅力的な物語やキャラの活躍が、100%は頭に入ってきませんでした。
とはいえストーリーを進めながら文章の中で『錬金術と機械技術・蒸気機関を利用した暮らしを織り交ぜたような、退廃的な世界』の設定は小出しに説明されており、その表現力は実に見事だと思います。冒頭から世界観や歴史や設定をズラズラ書き並べて設定資料集みたいになってしまっている作品よりかは、遥かにスマートです。
ですが喩えるなら、素敵な家に招待されて内装や家具や間取りの説明は事細かにしてくれるけど、この家が今どこに建っているのか、いつ建築されたのか、そもそも誰の所有物件なのか等の説明は一切無いまま案内が進む……そんな違和感や居心地の悪さを感じてしまいました。

しかし作風を見る限り、そこは重大な部分だと思いますし、プロローグへ繋がるまでの物語はとても気になる良作です。
冒頭や序盤を読んで心掴まれた人は、きっと物語の行く末を見届けたくなると思います。そんな魅力が詰まった力作でした。

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