煙いっ! そしてケモい‼ 蒸気と獣香が薫るスチームパンクはいかが?

 読者諸兄姉は『スモークスタック(SMOKE STACK)』と呼ばれるウヰスキーを御存じだろうか。
 煙を上げる機関車の正面をドーンと描いた派手なラベルに、栓を開けただけで広がる甘口のピート香……。
 本作はまさしく『スモークスタック』の如き作品である。


 本作の舞台は蒸気機関と電気技術がせめぎ合う大英帝国。
 武器商人であるカネトリの視点で物語が展開する。

 本作の魅力は何と言ってもその世界観だ。
 階差エンジンや空飛ぶ戦艦、機動要塞に名探偵。
 濃い語り口で綴られるヴィクトリア朝ロマンは、好きものには堪らないだろう。

 作中の歴史は現実世界のものをほぼなぞっており、当時の世界情勢や地政学に始まり、民間風俗などのウンチクも盛りだくさんである。
 あまりに詳し過ぎて、ヴィクトリア朝時代のヨーロッパを舞台にした作品を描きたい創作者にとっては教科書、もとい聖書となるだろう。

 本作はマニアックな部分ばかりではない。
 幻獣、亜人、獣人など、ファンタジー要素もふんだんに取り入れられている。
 獣人少女とのてんやわんやは、ケモナー紳士諸君にとって魅力的なシーンになる事請け合いだ。

 どうか混迷の時代の混沌とした空気……いや、蒸気を楽しんで頂けたら幸いである。


 本作最新章(二〇二三年 三月時点)はアメリカ南部が主舞台で、人種差別を真っ向から扱ったかなりハードな展開が多い。
 この章を読み進める時は『奇妙な果実』を部屋に響かせ、『バーボンウヰスキー』を呷るとその哀愁が何倍にも感じられるだろう……。



 あ、スモークスタック(スコッチウヰスキー)じゃなくなっちゃった……。

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