概要
「春よ、来い」
その塔に暮らす女の子は、ひととせばかりの一生を過ごす。
「女の子が目を覚ましたのはその余りの寒さからだった。上体を起こし徐に顔を回す。暗かった。それが彼女の見る初めての光景で、その時が彼女の始まりだった。目覚めた部屋は円形で十六の窓が等間隔に並んでいる。
窓の外は夜。切り取られた夜は部屋の中よりも明るい。部屋は夜より暗かった。女の子の寝ていたベッドは部屋の中央、どの窓からも一番遠い、部屋の一番暗い所にあった。女の子は立ち上がりベッドから跳ね降りた。ワンピースの裾が花開き冷気が刺し込む。降りた石造りの床は氷。彼女に身震いをさせる。」
<著者のおすすめは二周読むことです。おや? あちら↖にタグがございますね。>
おすすめレビュー
新着おすすめレビュー
- ★★★ Excellent!!!揺蕩うような感覚の読感
作者のおすすめに従って、私も二周読ませていただきました。
はじめは、とてもメルヘンチックな素敵なお話だなぁ……と塔の中の閉じた世界に届けられる風景をつらつらと楽しんでいました。
少女は時間の娯しみ方を心得ている気がしていました。涙の意味だけがわからずに贈られる品物が次々に変わっていくのを半ば羨むように見守りました。
なにかを説明すると物語を感じるという「良さ」を心なく奪ってしまうような気がするので、これ以上言葉を足すことはできませんが、涙の意味や、歌詞が訴える感情がやがて私にもわかるようになりました。
作者の杜松の実さんは、この物語をものすごく然りげなさに徹して描いているように私には…続きを読む