作者のおすすめに従って、私も二周読ませていただきました。
はじめは、とてもメルヘンチックな素敵なお話だなぁ……と塔の中の閉じた世界に届けられる風景をつらつらと楽しんでいました。
少女は時間の娯しみ方を心得ている気がしていました。涙の意味だけがわからずに贈られる品物が次々に変わっていくのを半ば羨むように見守りました。
なにかを説明すると物語を感じるという「良さ」を心なく奪ってしまうような気がするので、これ以上言葉を足すことはできませんが、涙の意味や、歌詞が訴える感情がやがて私にもわかるようになりました。
作者の杜松の実さんは、この物語をものすごく然りげなさに徹して描いているように私には感じられました。もし違った描かれ方をされていたら、私の中で強い感情が錨をおろしてしまい、こういう流動的な読感にはならなかったでしょう。
遠い星のまたたきや川の水の流れのように、まれに自分の中で途切れない物語、というものがありますが、このお話もそれに近い気がします。