名峰に沈む第六感

長月瓦礫

名峰に沈む第六感


ゆっくりと梯子を下りる。

特に侵食が激しく、いつ崩れてもおかしくない。

1階のベランダには波が打ち寄せている。


信じられない光景だ。

ブラディノフは建物と水に飲み込まれていない場所に降り立った。


草木も生えていない地面が露になっている。

すべてが水没する前に高山に発電所を作り、その上にマンションを建てた。


岩場が続いていて、あたりがよく見渡せる。

深い青がずっと続いている。

本来の海はどこにあるのだろうか。


「なるほど、リラの言っていたのはこのことでしたか。本当に熱心なんですなあ」


先に降りていたヴァルゴは快活に笑う。

豊かな髭を伸ばしたこの老人は1階に住み、発電所の管理も行っている。

管理者はどのマンションにも必ず一人は配置されている。


「ここにやってくる星の民を何度も見ましたが、大抵はこの有様を見て早々に去る者が多い。水底を探す者もいましたが、やがて諦めるのです。

あなたも地球から派遣されたスパイかなんかだと思っておりましたがね、どうにも違うようですな」


「情報収集という意味では、あながちまちがっていないかもしれません。

宇宙への関心はこれまで以上に高まっていますから。

地球でもビジネスに繋がるような何かを探しているのでしょう」


ただ、情報があまりにも遅れすぎているのは確かだ。

地球に届いたパンフレットが何億年も前のものだとは思わないじゃないか。


「それで、一体何が気になるのですかな。

今は水の底とはいえ、ここも名峰と呼ばれた山々です。

どのくらいの深さがあるか、想像もつきませんぞ」


老人の目が鋭く光る。

彼もブラディノフから何かを感じ取ったのだろうか。


山々の上に建設されたと聞いてから、漠然とした不安が拭いきれなかった。

ずっと何かが騒いでいた。

おそらく、地球で水面上昇が起きていないからだろう。


「ここは火山ですか」


声をどうにか絞り出した。

1階まで降りて、胸騒ぎの理由がようやく分かった。


ずっと火山活動による影響が気になっていたのだ。

海底にあろうがそれは変わらない。


火山活動に伴う地震であれば、津波が発生する。

背の高い波が来てしまえば、水にさらわれてしまう。

このマンションも無事では済まない。


どうもその想像がぬぐえなかった。

考えをまとめてから伝えると、ヴァルゴは嬉しそうに笑った。


「こんなことを聞かれるのも初めてですなあ。

一応、火山地帯は避けて建設しておりますよ。

いつ何が起きるか分かりませんからね」


「そうですか。ありがとうございます」


短く礼を言った。考えてみれば、対策していないわけがなかった。

余計な心配だったかもしれない。


「この星は火山が少ないのも幸いして、発電所とマンションの建設は比較的楽でした。住居も多く確保でき、安定した生活を送れています。

そちらの星は活火山が多いのですかな。

あるいは、激しい地震がしょっちゅう起きているとか?」


「まあ、場所によりますが……影響は出ますから」


誰だって悲劇は見たくないだろう。

活火山から吹き出る血のようなマグマや地震の衝撃を思い出す。

どこまでも広がる青い海を眺めていた。

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