創造主ではなく市長として、最高の世界(都市)を作れ!

神によって真っ新な世界に召喚された都市開発ゲームオタクの少年が、オリジナルの都市計画を進めていく面白いビルディングファンタジーです。

徹夜で『シムシティ4デラックス』に没頭して時間を溶かしたことがある身としては、主人公の少年のこだわりや『都市開発ゲームあるある』に共感し、彼の主張を終始ニマニマしつつ読んでいました。
登場人物達が『神』や『少年』と表現されるだけで固有名詞を持たない割に、とても個性に溢れており、愉快な掛け合いが繰り広げられる点も魅力的です。
二人の過去が気になってどんどん読み進めてしまい、軍神に啖呵を切るシーンではそれまでの交流や信頼の成果といった感じで、非常に熱い展開だと感じました。
主人公達以外にも、入居してくるのが普通の人間ではなく妖精や二足歩行のアルパカなどといった部分でも、ファンタジー要素を取り入れたオリジナリティに満ちていました。開発途中の世界(都市)で、そんな彼らと繰り広げる日常も非常に面白かったです。

ただ序盤からチュートリアル、都市の設計案、会議や交渉や他の世界(都市)の見学など、テーマに掲げている『都市開発』が進まないのが難点だと思いました。
しっかりと計画を立てるのは勿論大事なのですが、作中でもあるように『最低でもインフラ整備から取り掛からなければ都市の発展が遅れてしまう。発電所、水道、ゴミ処理施設。区画を決めて道路を引いて住民たちの家や職場を用意して、ようやく都市開発のスタートラインだ』というのがポイントになってきます。
しかしそうした設備や建築物の設置が、9万文字を迎えても目に見えて増えている様子がない部分は、気になりました。
都市開発ゲームは初日から道路を引いたり、区画を設定して住居や工場を建てることができます。人口や税収が増えて行くのと比例してできることも増え、警察署や消防署や病院を設置し、目に見えて発展していく自分の都市を眺めて満足するのが、最高の快楽だと思います。
現時点で作中ではDay34ですが、もしこれが本当に都市開発ゲームだったとして、この日数でこの発展具合だったらどう思うか、それは作者さんが一番分かると思います。

とはいえ開発を進めるペースは個人の自由ですし、とんでもない時間を溶かして都市をじっくり広げていくのも醍醐味です。
今後の期待値や伸びしろ、そして作品も都市も『まだまだ開発できる』という意味を込めて、この星の数とさせて頂きました。

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