第41話 運命に踊る人たち④
◆◆◆
大海原に、海鳥の群。
その水面下には巨大な魚群の影が動く。
餌食を求め、狩人の目で魚影を見定めた海鳥が、目標目がけて直滑降を仕掛けた。
着水をしようかというその時、海面が広く持ち上げられる。
現れたのは巨大なシャケだ。まんまと飛び込んできたのはむしろ貴様だと教えるように、大口で哀れな海鳥を迎え入れ、一噛みで骨を砕き、特大の飛沫を上げながら、海中の影に紛れていった。
魔王デーモン・カオス・キング・サーモン率いる、ジェノサイド・キング・サーモン軍団の侵攻である。
悠久の時を海で過ごし、繁殖の活力を全て己の力に変え続けたシャケの魔王は、もはやシャケ界に並ぶ者のいない怪物と化していた。
「時は満ちた! 今こそアトランティック・サーモンどもを駆逐し、我らデーモン・サーモンが海を統べるのだ!」
魔王の号令に、顎を大きく開けて応える魔のシャケたち。
その攻勢を止められるシャケは、この海にはいない。
ふと、彼らの進路に一匹の丸々と肥えたエビが一尾だけ泳いできた。
「これはよい! 景気づけよ!」
魔王シャケがエビに狙いを定め、大顎を開け、エビに齧り付く。固い殻を噛み砕き、中のぷりぷりの身を味わおうとした瞬間であった。
「ぬう!?」
口の中に激痛が走る。尖った何かが刺さり、魔王を引いている。
「小癪な!」
魔王シャケと何者かの激闘が繰り広げられていく。
身を捻っても、力勝負をしても、引く者は巧みに詰めてゆき、やがて、魔王シャケは海面上に躍り出た。
そこにいたのは、かつての自分と同じ形――人型の生き物。
人が、粗末な漁船に乗って、自分を釣り上げたのだ。
「貴公! どうだ大物であるぞ!」
「お見事にございます、陛下」
竹の釣竿を携える人物に、海上では不釣り合いな全身鎧の男が拍手を送る。
海の魔王の口から針が外され、代わりに異界の魔王の指がエラを抉っていた。
酷死無双と略されたい(世界の命運は酷い死に様で人類最後の砦を無に帰した俺たちの双肩にかかっている) ゴッカー @nantoka_gokker
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