絵本が持つ力を伝えてくれるお話

絵本から当然のように飛び出してくる、その中の登場人物たち。
本作ではシンデレラとその王子しか登場しないものの、わりととんでもない話や、裏話がついてまわる童話の登場人物が、食事に来るという発想はとても面白い。

シンデレラが王子である自らの夫に対して不平不満を言ったり、ただ愚痴を聞いてもらいたいだけだったり、手料理を振る舞いたいという欲求を持っていたりと、わりと現代的な価値観を持つところも、絵本の内容とのギャップがあって楽しいところ。

そうしたシンデレラとのやり取りの中で、主人公の山科も、店長の夢園との関係性を考え直すところは、絵本が持つ吸引力や影響力を暗に表しているようにも読める。
実際、ラストシーンで、夢園店長は「いつか、登場人物が飛び出て来ちまうような絵本、描いてくれよ」と言って、山科の絵本作家という夢を応援するようなことを言っている。

本作は、絵本が持つ力(楽しさ、面白さ、教訓など)を、絵本から登場人物が飛び出てくることをメタファーに伝えようとしているのかもしれない。

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