大日本怪盗団

野獣太郎

第1話 終末の大日本帝国

1945年8月1日


ピーンポーンパーンポーン


「国民の皆様、こんにちは。内閣首相の鳩山誠です。戦争が始まってから、もうすぐ4年が経とうとしています。皆さんの家族、兄弟は、立派に責務を果たし!我が国のために誇りを持って戦ってくれています!おかげさまで、我が国の勝利は目前に迫っています!皆様、どうか我々のために、もうひと踏ん張り!頑張っていただきたい。大和魂と!武士道の精神を持った我々には勝利しかないのですから!」


ピーンポーンパーンポーン


放送のチャイムを聞くと、静かに頭を下げ日本の勝利を祈る国民たちの中には、すでに日本の勝利を疑う者も多かった。

そして、この放送から5日後、その疑いは確信へと変わるのだった。


8月6日 広島 原爆投下


8月9日 長崎 原爆投下


〜〜〜〜〜8月14日 東京駅前


「号外でーす!号外でーす!日本は、我が国は、米軍に降伏しました!」


ざわざわざわざわ


〜〜〜〜〜8月15日


ピーンポーンパーンポーン


「国民の皆様。ただ今から天皇陛下による玉音放送を聞いていただきます。

繰り返します。ただ今から天皇陛下による玉音放送を聞いていただきます。

私は深く世界の大勢と日本の現状に鑑み...........耐え忍ぶことが困難なことでも耐え抜いて..........あなた方臣民は私のそのような意を体にしてほしい。」


ピーンポーンパーンポーン


〜〜〜〜〜同日 国会議事堂 首相会見


「天皇陛下のお言葉にもあったとおり、........耐え忍ぶことが困難なことでも耐え抜いて........以上です」


〜〜〜〜〜〜


「黒羽、行くぞ」


「どちらへ」


「私の自宅だ、女房と娘に会いたい」


「かしこまりました」


鳩山首相の秘書兼運転手の若林黒羽は、ハンドルを握るといつもと同じ道のりを全く違う心境で動かしていた。


半分くらいに差し掛かった頃だろうか、若林が交差点を右に曲がり山道に入った。


「黒羽、どこへ行ってるんだ?」


「...」


「おい、黒羽!」


「...」


「若林!」


「総理、ここで降りてください」


若林はそう言うと、鳩山を降ろし山の中へ歩いて行った。


「なんだ黒羽。急にこんな山奥に。」


「総理、いや先生。僕達はこれからどうしていけばいいのでしょうか。国民の期待を裏切り、平和の実現、国民に幸福を与えるということも結局果たせず。」


若林は涙ながらに語った。


「お前が思い悩むことじゃないだろ。国民の期待を裏切ったのも、戦争を起こしたのも、幸福を実現できなかったのも全部俺のせいなんだよ。」


「違います、違います。何もできなかったんです僕が。」


「もうお前は気にするな。今日で政界から離れて、これからは好きなことして生きろ。お前の性格のことだから、考えれば考えるほど追い込まれる。」


「いいえ、僕は続けます。」


「だめだ、お前にとっても悪いし、これから入ってくる新人のためにもならん。」


「...分かりました。ただ、」


「ただ、なんだ?」


「平和な日本、国民が幸せに生きる日本を作るために、僕は裏方として日本を支えていきます。」


「なんともお前らしいな。だったら、これまで以上に..」


パーーーーーーーーン


銃声だ。手で顔を覆ってしまった若林は、警戒しながら顔を上げる。


「先生っ!」


鳩山は首から血を流し倒れていた。ここは山奥ですぐに救急隊が来れる場所でもない。


「...ば....かばや...」


先生だ。俺の名前を呼んでいる。


「先生!しっかりしてください!処置しますから!」


「いや、いい。遺言を聞いてくれないか」


「遺言?何言ってるんですか?死に急がないでくださいよ!」


「黒羽、お願いだ。」


「分かりました!言っていいですから!でも絶対助けますよ!」


「女房と娘には謝罪と感謝を伝えてくれ。国民にもそうだが、俺は多忙を理由に家族にもいい思いをさせてやれなかった。旅行をしたり美味しいものを食べたりしたかった、孫の顔も見たかったな。本当にすまない。かおり、みほ。そしてこんな俺を支えてくれて本当にありがとう。そして、君たちのしあわせを一番に願っていると。そして黒羽、この誇り高き日本に生きることに感謝して、国民に幸福を与えられるように変えてくれ。」


「はい。約束です絶対に。」


「あと、敵討ってくれたら嬉しいな....」


「はい。絶対にです先生。」


「ありがと...」


そう言い残して鳩山誠総理大臣は死んだ。いったい誰が殺したのか...


〜〜〜〜〜8月16日 東京駅前


「号外でーす!号外でーす!鳩山誠が、総理大臣が謎の死を遂げました!」


ざわざわざわざわ


「ごめん、それ貰える?」


「どうぞ!」


「ありがとう」


”鳩山誠首相、謎の死!戦死した兵士の呪いか。”


「ふふっ、作戦成功。」








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