第5話 一〇〇〇年の未来
病気の父に代わって性別を偽って出征した木蘭は、その後従軍すること十二年にして兵役を解かれて故郷に帰還することができた、とされている。
木蘭が帰還したその当時、平城の都では、道士寇謙之の進言を受けた太武帝による仏教弾圧が行われていた。寺は容赦なく道教施設に変更させられ、僧侶は還俗させられた。仏教界にとっての最初の苦難であるこの時代を以て、後世言うところの三武一宗の法難の嚆矢とする。
その時期に再会した曇曜と木蘭は…………
その後、太武帝から文成帝に代替わりすると仏教弾圧は終わって再び仏教が勢いを取り戻すことになった。仏門に戻った曇曜は仏教界の重鎮たる高僧へと成長し道人統にまで上り詰めた。
皇帝の命により、首都平城の西に雲崗石窟の造営を行ったのが一〇〇〇年以上後世に残る曇曜の最大の功績だ。曇曜五窟と言われる巨大な仏像は、北魏の歴代皇帝五人の姿を模して作られたと言われている。
一方……
親孝行な花木蘭の男装しての従軍は人々の心を打ち、詩として歌われ、隋末唐初の混乱期に花木蘭が出現して活躍した、という伝説も生まれた。伝説はその後一〇〇〇年以上も語り継がれ、ムーランという名でアニメーションの主人公としても描かれた。
それぞれが一〇〇〇年以上未来にも残るような功績を残した曇曜と花木蘭であるが、そんな二人に、炭から熾火が燃え上がるような熱い秘密があったことを、後世の者は誰も知らない。
木蘭の残り香 ~北魏僧曇曜の若き日~ kanegon @1234aiueo
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