『芝さんに告白できなかったら、即死亡!』⑤



「え……こ。構文をチェックしてほしいなと思ってただけだよ」

「英語か何かなの?」

「そ……そうなんだよね。英語……English。解決したんだけどね」

「そうなんだ。英語得意だから、また言ってね」

 

 査定人はミライをジロリとみて、食べていた手を止め、命題の事を言いだしそうだった。査定人が余計なことを言う前にこの場を去らなければいけないと考えたミライは一人早食い選手権を開催した。


 隣には憧れの芝さんがいるのに、早くこの場をさらなければいけない状況はミライにとっては苦痛であった。



「この後、ミライ君講義あるの?」

「ちょ……ちょっと約束があってね。そ……そこに向かわなくちゃいけなくて」

「そうねんだね。忙しいんだね」

「ま……まあね」


 もちろん、予定はなくできるならばその場に残り、ゆっくりとこの空間に残りたかった。

 

「じゃ……じゃあまた」

 芝さんとヒロに別れを告げて、地上に出たミライは査定人をにらみつけた。査定人は強い視線を感じてミライを見た。



「なんやねん? 俺の顔になんかついてるんかいな?」

「余計な事いうなよ。せっかくの時間が気が気でなくなったじゃないか」

「しゃあないやん。さっき告白しとけば、後はゆっくりすごせたんやで? ちゃうか?」

「……たしかにそれはそうだけど」

「人のせいにしたあかんで。 まあ、ええやん! じゃ作戦を実行しよか!」

「……作戦?」


 時刻は13時になっていた。



 ミライと査定人は食堂を食べていた校舎のむかえの校舎の中に移動した。査定人は肩に背負っていったカバンを地面に叩きつけるように置いた。


「よっしゃ。着替えよか!」

「着替える?」

「さっき言ってた作戦やんか? 忘れたんか? ええからはよ。出てきてまうで!」

 

 校舎の中で堂々と着替えだす査定人を見て、ミライは焦っていた。なんせ周りには女性も行き来していた。だが、通り過ぎる人はミライたちは見えていないのかというくらいこちらを見向きもしなかった。


「仕方がない!」

 査定人の横でミライも着替えだした。


 着替えを終え。



「僕たち大丈夫なのか?」

 窓に映る自分を確認してミライは不安になった。窓に映っていたのハンティング帽子、チェック柄のコート、革靴を履いた、まさしく探偵が立っていた。


「完璧やろ! あんたホームズってしてる? 探偵の。しかも名探偵やで!」

「小説にでてくるね」

「そうそ……あかん隠れろ!」


 査定人の声に反応してミライは物陰に身を隠した。その様子をみて周りにいた人たちはクスクスと笑っていた。恐らく、男2人がコスプレをしている遊んでいるように見えたに違いない。


「どうしたの? 僕たちは今何をしている?」


 ミライは周りを見渡したが、特に変わった様子はなかった。しばらくして、査定人は歩き出した。その後をミライは追っていく。

 自分がなにかしているのかもわからず、査定人に確認した。査定人は静かに前を指さした。指さした先には、芝さんが歩いていた。


「尾行や。尾行」

「ダメだよ。やめよう。これはストーカーだよ」

 ミライは歩くのはやめた。

「なんでやねん。今歩くのやめたら、あんた死んでまうで。マグロみたいに」

「よくないよ」

「せやかて。このまま芝さんを見失ったら、あんた死んでしまうで。それでもいいんか?」

「……それはまずい」

 ミライは前に歩き出した。




「周りから笑われてる気がするんだけど」

「しゃあないやろ! お前が告白せえへんねんから、尾行してるんやないか! それに周りなんか気にしてたら好きに生きていけへんで……あ、降りたわ!」

 急いでミライは降りた。急いで降りた際に査定人を引っ張った為に、電車の車両に査定人がしりもちをつき、電車の扉がゆっくりとしまった。


 ミライは電車に取り残された査定人に手を振った


「まてやー!」

「よし! すっきりした! あの人は少し痛い目を見ないと治らないんだよね」


 査定人はミライに向かって大声を出しているが、無常にも電車は次の駅に向かって出発した。

 清々しい表情になったミライは駅のホームから改札口にむかう芝さんの後ろを付けていく。


「背徳感がすごくあるな……」

 ミライは後ろめたい気持ちがありながら、芝さんの後をついていく。芝さんは駅を出るといつも通っているのか、細い道を進んでいく。恐らく、よくこの道を通るのだろう。また、家に向かうわけではないみたいだ。


  さらに進んでいくと小さな回転ずし屋の横の店に入っていった。店は赤い看板を出ていた。ミライはそこの店を確認する。



「焼き鳥屋だ! そっか、ここでアルバイトしてるんだ。へえ、意外だな。居酒屋に働いているようには見えなかったけどな」

 口を開けて店の前に立っていると後ろから声が聞こえた。


「あんた、何してくれてんねん! おかげさんでこっちは大変やってんぞ!」

「……ちょっと、声が大きいよ。移動しよう。移動」

「ほな。中はいろっか!」

「ち……ちょっとまて待て! 落ち着いてくれ!

「なんやねん。居酒屋に食べに入って、愛の告白をすればいいやん!」

「あんたは関係ないかもしれないけど、芝さんに迷惑かかるだろ」



 ミライは居酒屋に入って、告白した時のことを想像したが、とてもじゃないけど、いいイメージが持てなかった。


「しゃあないな。ほんじゃ、むかえの飲み屋で待つか! 時間間に合うか?てかこの時間から居酒屋のバイトって早ないか?」

「仕込みか何かあるんじゃないかな。時間は……それを飲み屋で考えよう!」

 時間は刻一刻こくいっこくと迫ってきていた。時刻は15時20分を過ぎていた。



「ほんとに僕は告白しないと死んじゃうの」

「くどいて! ほんまや!」

「なんでなの?」

「それは……言えん。……というか知らん」


 査定人は初めて困った顔をした。その表情をみたミライは余計に査定人の言葉の説得力を増す結果となった。



 あたりも徐々に暗くなってきた。査定人が楽しそうにお酒をたしなんでいる間、ミライは覚悟を決めようとしていた。残り時間も15分を切っていた。



「お! 居酒屋から芝さんが出てきたで! ほら、告白してこいや!」

「わ……わかってるよ! 行ってくる!」

 意を決してミライは席を立ち、芝さんに近づいていく。



「あ! ミライ君! 今日はよく会うね!」

「ほ……ほんとだよね。あ……あ……の話があって」

「話? どうしたの?」

「実は……英語の構文を教えてほしくて」

 そこからあまり中身のない話が続いた。芝さんを目の前にするとさっきの覚悟はどこかにいってしまった。



「違うんだ。実は、芝さん! ぼ……僕、芝さんのことが」

「ありさ!」

 再度、覚悟を決めて話し出した時。居酒屋から年上であろうか、男の声が芝さんを呼びかける。芝さんもその声に反応して後ろを振り返った。



「僕は、芝さんのことが好きなのです!」

「……え」

 唐突の告白に驚いて、芝さんはまた振り返りミライの方を見る。ミライはまるで謝っているかのようにお辞儀をしたので、周りの人からしたら、告白しているように見えないかも知れない。


「じゃあ、また」

「ちょっと待って!」

 ミライを静止させようと芝さんは右手を差し出したが、ミライは走ってその場を去ってしまった。




 ミライはそのまま駅に着くまで走り続けた。駅に着くと査定人がミライを持っていた。

「どやった? この時間に生きてるってことはお前告白したんやろ?」

「……聞いてない。……し、無理だ」

「まああ、ええわ! ようやった! あんたはできる子やと、出会って1分でわかったわ! 次の命題までのんびりするか!」


「また、命題があるの! 勘弁してよ。僕が何したっていうんだよ」

 やり遂げたミライの目は輝きを取り戻そうとしていた。








・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

見ていただきありがとうございます。

引き続き小説を書きたいと思っています。

宜しくお願いします。


黄緑

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

転生できなければ『即死亡』! 黄緑 @kimdori

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ