線香花火

夏がいいなんて思ったことがない。


暑くて、うるさくて。


どこに行くにも、何をするにもうんざりしてばかり。


スイカなんておいしくないし、海で泳ぐことにも全く魅力を感じない。


何かするだけですぐに汗だくになって、すべてが嫌になる。


「私、季節として夏はすごい好きだけどね」」


化粧をばっちりと決めて、汗ひとつかかない友達はそう言った。


「夏祭りとか、いろんな行事ごとがあって、どこに行くのにも夏が一番素敵じゃない?」


そんな呑気なことが言えるのは、ただあなたが恵まれているだけでしょう。


こんなどうしようもないことを言っても季節は巡りいずれ夏はやってくる。


私の大嫌いな夏は、何度でも巡ってくる。


「お前のもうすぐ落ちそうじゃん」


私の線香花火をみて友達がからかってくる。


夏なんて大嫌いだ。


こんな季節、早く落ちてしまえ。


「ほら、落ちる、落ちる」


パチパチとさりげない飾りのような音を立てながら光は弱っていく。


ゆっくりと役目を終えるかのように光は地面へと向かってゆく。




私の夏が終わる。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

主人公になれたらな。 春香 @haruka023

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ