日本一 1

 実況

・Force Stragy日本予選優勝はODDS&ENDS! 激戦を制し初代王者に輝きました!


 解説

・最終マッチにふさわしい、手に汗握るシーソーゲームでしたね!


 実況

・最後のヴィクター選手のキャラコンすごかったですね。フォージであんなことできるんですね


 解説

・いや、今まで見たことないですよ


「「「「「やったあああああ!」」」」


 勝利が決まった瞬間、すぐさま立ち上がりながらヘッドホンを外す。恐らく4人とも全く同じタイミングで同じことをしていたのだろう。俺が左右を見る前に横からタイガが飛びついてきた! それに続きテツも反対から、正面にはニシの顔も見えた。


「俺達が日本一だ!」

「やったぁ!」

「よっしゃ!」

「ナイス!」


 それぞれが思い思いの言葉を口にする。俺達は今、喜び一色に染まっている。

 結成からの目標だった日本一を達成したのだ。

 この4人だから出来たこと。

 この4人だからここまでやってこられた


「ヴィクターさん! ヴィクターさん!」


 全員がいったん落ちつき、抱き合っていた状態から離れると、目の前のタイガが泣き出していた。


「おいおい、タイガなに泣いてんだよ」


 笑いながら、タイガの頭をわしゃわしゃ撫でるテツ。そんなテツも少し目が赤いのを、俺は見逃さなかった。

 二人ともまだ、若いからな。感情を表現するのが得意のようだ。俺とニシは人前で泣くようなことは、もう……。

 そう思いニシの方を向くと、タイガよりも号泣しているニシの姿が見えた。思わず笑いがこぼれた。意外にも、ニシはこういう場面に弱いようだ。いや、色々と過去の想いと、重なるところがあるから余計なのかもしれない。


「ヴィクターさん。ありがとう」


 タイガが俺の目をまっすぐ見て、そう口にする。テツもニシも俺の方を見ている。


「いや、それはこっちのセリフだよ」


 タイガの言葉で、俺の中に様々な想いがあふれだしてきた。


 初めて本気でゲームに取り組むこと決めた日。

 もう二度とゲームをしないと誓った日。

 また頑張ろうと決意した日。


 その時、俺の下まぶたに涙がたまり始めたのが分かった。いかに、自分が夢中で必死で、真剣だったかがこの涙一つで良く分かった。

 俺ってまだ泣けるんだな……。



 実況

・勝者のODDS&ENDSにインタビューをしたいと思います。日本一おめでとうございます。今の率直な感想を聞かせてください。




 俺達が横一列になると、スタッフの人が脇からきて、タイガにマイクを渡した。


「本当に本当に、嬉しいです! 日本一の舞台で、この4人で勝てたこと。僕にとっては、努力と表現するには、あまりにも楽し過ぎる時間でしたが、ここまでやってきて本当に良かったです」


 手で涙をぬぐい、大きく息をしてから答えた。


「俺とニシは、タイガの影響で。そのタイガはヴィクターさんに感化されて。ゲームのアツい想いは繋がっていくんだと実感しました。今日これを見てくれた、人たちが未来の敵になることを楽しみに待っています!」


「ここにいる4人とも、一度は人生に絶望したことがある人間です。だけど、ゲームはこれほど夢中になれて、熱狂出来るものだということを、照明できたと思います。日本一本当に嬉しいです!」


 テツ、ニシと続くとだいたい言いたいことは、3人に言われてしまった。今の率直な感想か……。そうなるとこれしかないな。


「また、ゲームの舞台に。競技の世界に戻ってこれてよかったです」




 実況

・ありがとございました! このチームならではの想いが聞けたような気がしますね


 解説

・そうですね。タイガ選手の一番の功績はヴィクター選手を、もう一度競技の世界に引っ張て来たことかもしれませんね


 実況

・本当にそうですね。これからのフォージが、そしてeスポーツシーンが楽しみですね。それでは、選手の退場です。会場の皆さん、画面の越しの皆さん。激闘の試合を見せてくれた選手たちに、どうか大きな拍手でお見送りください




 舞台袖にはけて、控室に戻る。戻ったらすぐに帰りの用意をしなければいけないのだが、体が重すぎる。緊張から一気に解放されたことと、優勝への喜びが原因だからか、気分は最高だ。


「でも、本当に優勝しちゃいましたね」


 4人で廊下を歩いていると、ボソッとタイガが口にする。タイガの目標は初めからここだった。だけど、それが本当に現実として叶ったことが、まだ夢のように感じているのだろう。


「楽しかったな。苦しかったけど」


「それが本当の率直な感想だよな」


 テツのいうことにニシが同意するが。まさにその通りだ。


「おい!」


 後ろから声がしたので振り返ると、そこにはKARUMAとショーターがいた。それを見るやいなや、俺より先にタイガが反応して、少し前に出る。


「よかったな、俺達みたいなのじゃなく、いい仲間が見つかって」


 しかし、そう一言言ってすぐに去って行った。

 俺達はしばらく、あいつらがいた方を向いて立ち止まっていた。


「最低な奴らでしたけど、強かったですね」


 ニシの人ことがきっかけで、再び自分たちの控室に向かって歩き出す。


「ああ。俺が何もしていなかった2年間もずっとゲームの世界にいたんだ。なんだかんだ言って、積み上げている物の量を感じたよ」


 あの必死さを、俺といるときに見せてほしかった。

 いや、それは違うな。あの出来事がなければ、今の俺は無いし、3人とも出会えなかった。

 俺は恵まれていたのかもしれない。


「でも、僕達はそれに勝ったわけですからね!」


「そうだな」


 本当に、みんな強かった。でも、それに実力で勝ちきったことは、自信にも繋がる。

 それに反省材料もいっぱい出来た。これでまだまだ俺達は強くなれる。

 この4人で。

 この4人なら。


「でも、本当に疲れた。少し休みたいよ」


「老兵にはちょっとキツイ戦いだったもんな」


「だけど、1ヶ月後にはもう世界大会だよ」




「まあ、また世界一目指して頑張りますか!」


「はい!」「おう!」「ええ!」
























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俺らはゲームに本気なんです 伊豆クラゲ @izu-kurage

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