決勝戦 9
「ごめんなさい!」
「すみません。焦り過ぎました」
結果として、上手くいかなかった二人が謝ってくる。声を聞くだけで、切羽詰まっている様子がうかがえる。自分のせいでチームが負けるかもしれない。声からそんな思いが、汲み取れるほどだ。
今回は勝負をあせらなくても、押しつぶされる可能性はかなり低い。それは俺がアタッカーになったことで、純粋な火力ではこちらの方が圧倒的に有利だからだ。
「大丈夫! まだ負けてない!」
俺とニシが合流できれば、まだ何とかなる。
「テツ! 敵は来てるか!?」
「いいえ! まだ向こうもヒールしてるみたいです!」
恐らく、それが終わればテツの方に突っ込んでいくだろう。
「ヴィクターさん! 危ない!」
頭の中で作戦を練ろうとして、一瞬周りが見えていなかったところを、ニシの声で戦場に戻された。
俺達の行く手を阻むように、スナイパーの弾で牽制されていたようだ。無理に俺たち自身を狙わず、これ以上前に進めば当たるような位置を撃っている。スナイパーの位置を確認すると、初め俺達の正面にいたアタッカーが、テツの方に向かっているっているのが見えた。
「巻き切りました!」
テツがHPが回復しきったことを報告してくる。
こうなったら、やるしかないな。
「テツ、アタッカーが二人そっちに行ってるから、ある程度距離を保って後退して。削りきられない程度には撃ち返していい」
「了解です!」
これで、さっき相手にやられたことと同じことが出来る。下がったテツを追えば、俺達が横から攻撃出来る。もし、追わなけれな、タイガが復活するまでの時間が稼げる。
ただ、これをすると恐らくスナイパーが前に出てきて、俺達の確保できるエリアは少なくなるだろう。だけど負けるよりはましだ。相手はまだ俺が盾職だと思っているだろうし、意表をついて人数不利を覆したいところだ。
「ニシ、焦るなよ」
相手が動き出すまで、俺達はいったん遮蔽物の裏で待機している。ニシが少し落ち着かないようなので、声をかけて落ちつくよう促す。こんな場面でじっとしているのは、心が落ち着かない。
「ヴィクターさん。少し下がりましたけど、俺の後は追ってきて無いみたいです」
「了解。いったん待機で」
おかしいな。相手はあれ以上の攻め時はなかなかないはずなのに。俺達の作戦に気が付いたのだろうか? いや、それだとしても、全く対応が出来ない程のものでもないし、他になにか策があるのか? いや仮にそうだとしても、今俺達に時間を与える方が、俺達に取っては有利に働くのだが。
相手のスナイパーは射線から見るに右寄りに2枚いたのが、中央に寄ってきているだろう。ポイントを確保して確実な戦法を取ろうとしているのだろうか?
考えれば考えるほど、色んな考えが頭の中を交差する。
「ヴィクターさんの前2枚います!」
「なに!?」
テツが、詰めてくるかもしれない敵の様子を伺っていた所、俺達側に寄っている所が見えたようだ。遮蔽物から少し体を出し、俺も確認すると一時は、テツの方に向かっていた、奴も合流していることが分かった。両方ともアタッカーだ。
誘い込まれていることが分かったから、4人で俺達二人を潰しにきたのだ。アタッカーはニシしかいないと思い込んで。これは、逆にい有利だ。恐らくこの遮蔽物を二手から囲い込むように、詰めてくるだろう。そうすれば、そこに置きAIMをしておけば、一気にアタッカー二人をダウンさせることが出来る。そうなれば、ほぼほぼこちらの勝利は確定する。
「テツ、俺達の真後ろまで移動してから、合流してくれ」
「了解っす!」
相手の矛先がこちらに向いている間に、テツのサイドから回り込んでもらうことも考えたが、ここはあえて相手の策に乗り、正面から受けてたつことにする。
「ニシ、ギリギリまで引きつけて!」
「はい!」
遮蔽物越しに、かすかに相手の足音が聞こえ始めた。それと同時に俺達の遮蔽物にスナイパーの弾が当たったのが分かった。こちらに圧力をかけるためだ。自身には当たらないと分かって入るものの、定期的に、弾が飛んでくるのはストレス以外の何物でもない。
「俺達が遮蔽物から出なければ、スナイパーの射線には入らないから、落ち着いて対処すれば大丈夫。対面勝負だったら絶対に負けないから」
「焦らず、無理せず。仕留め切ります!」
「タイガ、リスポーンまで戦闘が伸びるかもしれないから、準備しておけよ!」
「はい!」
テツも、そろそろ合流できる位置に来た。もう少し待てばこちらから仕掛けることも可能だ。
すると、目の前のアタッカーが動いたのが分かった。足音的に二人とも、同じ方向から攻めてくるようだ。
「ニシ! 左二枚くるぞ!」
恐らく盾に全部吸われるのを嫌い、どちらか一方に賭けてきたのだろう。もし場所を入れ替えるのだとしたら、遮蔽物からはみ出る可能性があるからそれを狙っているに違いない。
しかし、今の俺達はただ方向転換をすれば済む話だ。
「見えた瞬間に撃っていいぞ」
先に撃ちだすことで、出来る限り相打ちになる可能性を減らす。
「いけ!」
相手の姿が見えた瞬間に、掛け声と同時に銃を撃つ。
目の前の敵が一人ダウン……する前にニシがダウンした。俺はニシの後ろにいたことで、俺はノーダメージだ。この状況で撃ち負けることがあるのか?
一瞬脳が目の前の状況を理解できずに、停止仕掛けたが。
「ヴィクターさん!」
後方にいたテツの声で我に返って、リロード後もう一度撃ち返すと、一人はダウンさせることが出来た。もう一人は、一度後退していく。
ニシの弾が発射される前に、ニシはダウンしたようだ。しかし、なんだかおかしい。
「凸スナだ!」
その報告で気が付いた。違和感の正体は銃声の数だった。ニシは、凸スナのヘッドショットとアタッカーのフォーカスをされ一瞬でダウンしたようだ。そして、俺が倒したのはアタッカーだ。スナイパーの一人は一瞬体を出してすぐに戻ったようだ。
目の前の元チームメイトの実力に恐怖を感じた。
「もう一度来るぞ! 反対!」
「テツ、先に牽制する!」
敵のもう一人のアタッカーが、合流したのが分かった。恐らく稼いだポイントで、武器強化は済んでいるんだろう。またさっきと同じように、クイックショットをされては、勝ち目がない。先に制圧して、打開策を撃つ。
「俺が左から回りこむ! 援護して!」
「了解!」
すぐさまテツは、体をだし敵を撃ちだす。今までの練習の成果が発揮されて、こちらに向かってきた相手のHPを半分程削りきった。テツの勝負強さのおかげで一瞬の時間が稼げた。
その隙に俺は、遮蔽物から飛び出し、少し大回り気味で横を突ける位置に行く。
「テツ、リロードして! 次のタイミングで前方の敵フォーカスするよ!」
「絶対に一枚落としきる!」
「僕もそろそろリスポーンできる!」
相手は絶対にこの状況で決めに来る。防ぎきればタイガのリスポーンでこちらは絶対に勝てる状況になる。しかし、ここで弱気になってはいけない。俺達はここで倒しきる勢いで行かなければ、相手の勢いに飲み込まれてしまう。
「来るぞ!」
テツの正面の遮蔽物から敵が出てくるが、俺の射線側では無かったため、撃ちだしが少し遅れた。
「やっば!」
テツの正確なAIMが、相手のヘッドショットを抜き、ほぼ同時の撃ちだしだが、何とか撃ち勝った。しかし、右サイドにいた、スナイパーに射貫かれダウンする。
「ヴィクターさん! すまねぇ後は任せた!」
これで、こちらは1対2。しかし、残りは居場所が割れているスナイパーが2人。一人は、すぐそばの遮蔽物。もう一人は少し離れたところ。
「ヴィクターさん! リスポーンしました!」
「ナイス!」
タイガがさっき、テツがいたところより少し後ろの方でリスポーンする。何とか間に合った。これで2対2だ。
「俺は、前に出る! タイガ頼んだぞ!」
「はい!」
俺は、一回無防備に体を出す。するとすぐさま、相手が動き出すのが分かり、もう一度遮蔽物に隠れる。
「よっしゃ!」
相手の銃弾は空をきる。それを確認した瞬間に一気に前詰める。相手がコッキングしている隙に、俺の距離まで持っていく。
「うあああああ!」
滑り込みながら、敵と対面する。お互いの弾丸が交差する。
目の前の敵がダウンした。俺のHPは後半分。正面対決に勝ち2対1。
しかし、残りの敵の方に向かっているタイガのHPも削られている。一発当てられたようだ。
「タイガ! 決め切るぞ!」
「はい!」
俺とタイガは、ヒールせずそのまま、ラスト一人の元に全力で走り込む。
すると、相手がタイガの方に銃口を向けているのが分かった。それを見てすぐさま、俺は走りながら牽制射撃する。
「なんて、図太い奴なんだ!」
最後残っているのは、KARUMAかショーターか俺には分からない。だけど、そいつは一切こちらには目もくれず、多少HPは削られながらも、冷静にタイガを撃ちぬいた。
「ヴィクターさん! 後は任せました!」
フォージのシステム上、どうしても再リスポーンは後方からになる。そのため、今の戦況を見て自分の位置からでは間に合わないと判断したタイガは、囮役として買って出てくれた。
そのおかげで、俺はフリーであいつに近づくことが出来た。
「いっけぇぇぇ!」「やれぇぇぇ!」
テツとニシの声が重なりあう。
敵の姿が見えたと同時に、こちらに銃口が向いているのが分かる。まずい。このままでは試合が終わってしまう。だが、もう隠れられる遮蔽物はなく、いつも仲間を守ってきた盾は持ち合わせていない。
俺のHPは体のどこにスナイパーの弾が当たってもダウンする。しかし、相手の一発を撃たれる前に、倒せるほど俺が持っているアサルトライフルは強力じゃない。
一歩遅かった。相手がコッキングし終わる前に、たどり着かなければいかなかった。
俺は、また届かなないのか。
相手の弾が発射されたのが分かった。
負けたそう思った時。俺の指が無意識に動いた。
それは、テツと何百回とやったキャラコンだった。滑り込んでいったおかげで、通常よりもスピードが上がっており、予想外の動きで相手の弾は外れた。
すぐさま俺は銃を腰撃ちで乱射した。最後のチャンス。その時には手の震えは止まっていた。
何千回。何万回と練習してきたAIMは全弾ヒット。
VICTORY
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