第4話 いつもと違う

 いつもと同じ時間に起きて、いつもと同じ制服に着替えて階段を下りる。柔らかな微笑みを浮かべて、おはよう。と声をかけてきたいつも通りの叔母に不愛想に、おはよ。と一言返す。いつも通りの一枚のトーストにかじりつきながら、今日はお米の気分だったんだけどな、とまだ覚醒しきっていない頭で考える。

 いつもと同じルーティーンで準備をしていつも通りの時間に家を出る。視界に入ったテレビの中で、アナウンサーが、今日の1位はふたご座です。と快活に告げた。


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 今日1日の時間割は1週間の中で一番マシな時間割だ。教師がやたら壇上で自分の話を展開したがる現代文も、話がまどろっこしくてつまらない非効率的な化学教師の担任も今日はいない。何も考えずにただ言われたことをこなしていればいい体育と、自分の好きを見つけるという大義名分で大したことをしなくても許される美術もある。

 自分でもいつもより、機嫌がいいことがわかる。登校の途中には普段めったに会わない野良猫に会ったし、おばあちゃんに道順を聞かれて答えたらお礼を言われた。ちょっとだけ嬉しいが重なると今日がいい日になったように感じる。少しだけ機嫌がいいだけで、周りに少し親切にしてもいいかなっていう気が起きて、ちょっと落とし物を拾ってみたり柄にもない事をしてしまう。感情を表に出さなくなってから、両親が死んでから、めったにしていなかったそういう親切をしたこと自体にまた少しほくそ笑む。黒板にチョークが打ち付けられる音を聞きながら、雲一つない青空を見上げて、また少しいい気分になった。


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 今日1日、私は機嫌がよかった、と思う。いつもよりちょっと親切な私をクラスメイト達もちょっと意外そうに見ながら、いつもよりがなかった気がした。それだけで気分が上がるほどに、無意識に周りの目を気にしている自分が腹立たしかった。

 それでも、今日はいい日の部類に入るし、小さないいことが続きすぎて、今日この後とてつもない嫌なことが起こるのではないかとさえ思ってしまう。そんな嫌なことがなければいいなと思いながら、通いなれた図書館までの道へ足を運んだ。

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