第3話 続き
いつもの席はいつもの席じゃないように見えた。日に照らされているその席はいつもと違う雰囲気でなんだか少し近寄り難かった。すれ違う図書館の職員に不思議そうな目で見られていることに気づいた私は、我に返りいそいそと席に着いた。いつもと違うそこは、暖かくて私にはまぶしすぎた。さっき選んでおいた本を開きページに目線を落とした。やっぱり、ここが私の居場所だ。
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本を一冊読み終わるころには、人はまばらになって、外の景色も暗くなり始めていた。やはり今日は来たのが遅すぎたな。心の中で呟き、私は席を立った。今日借りる本をカウンターに持って行こうとすると、一冊の本から何かがひらりと落ちた。それを拾い上げてみると、栞だった。本に挟んでいたのだろう。司書さんは返却の時に気づかなかったのだろうか。司書さんに栞を渡そうかと思い。栞を手にカウンターまで行く。次の方、こちらへどうぞ。と声を発したのはあのイケメン司書だった。本と栞を差し出して、イケメンの言葉を待つ。
「あの、こちらの栞は、、、」
申し訳なさそうに眉を下げてこちらを見るイケメンを見て、私はなぜか
「、、、すいません」
と言って栞を征服のポケットに入れた。貸し出しの処理をする手元を眺めながら思う。いつもの私だったら考えられない行動だ。なんであそこで、本に挟まってたと言わなかったのだろうか。この栞の持ち主がこの栞を探していたら困ってしまうかもしれないのに。いや、それすらもらしくない。そうだ、きっと私はこのイケメンと必要以上に話したくなかったんだ。そうだ、そうだと納得していることを表す言葉を心の中で何度も繰り返す。貸し出し処理の終わった本を受け取り、黙って軽く頭を下げて図書館から出る。今日は家に帰って本を読んですぐに寝よう。新しく見つけたカフェに新しいイケメン司書、いつもと違って見えた席、そして本から出てきた栞。今日はいつもと違うことが多すぎた。
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「ただいま」
小さな声が宙に溶けると、部屋の奥から叔母が顔を出した。
「おかえり、まなちゃん。今日はおそかったのね。」
まあ、と返して自室に向かう。制服のままベッドに転がり、ポケットから栞を取りだす。そのまましばらく眺めていた。
「あぁ、やめやめ、こんなのらしくないでしょ。」
そのままベッドから立ち上がって制服をハンガーにかける。夕食ができたからと私を呼ぶ叔母の声を聴いて部屋を出る。机の上の栞をちらりと見ると電気を消してドアを閉じた。
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