第22話 日常へ

 ローズクリークの屋敷から白い煙が上がったのを見て、ザカリー・グッドタスクは鏡を使って日光を反射させ、スモールクリークの方に光を投げた。やがてきらきらと光の返信が返ってきた時、ザカリーは座り込んだ。終わった。終わったのか。

 だが油断ならない、とザカリーは銃を構えたままイーノックを待った。果たして彼はクラリッサを連れてきた。隣にフランクはいなかった。

「フランクは?」

 足を引きずってきたイーノックにザカリーは訊ねた。イーノックは首を横に振った。

「ザカリーさん」

 クラリッサが彼を見つめた。

「戦ってくださったのですね」

「俺だけじゃない」

 ザカリーは遠く、スモールクリークの方を見た。

「みんなで戦った」

 そして、勝った。

 ザカリーのつぶやきが風の中に消えていった。三人はスモールクリークへ向かった。



「勇敢なる男たちへ」

 スモールクリークの中でも小高い丘。そのてっぺんに、人々は墓を作った。アーロンとの戦いで死んでいった仲間たちを慰める碑を建てたのだ。石に刻まれた名前の中に彼らがいた。

 フランク・ヘイウッド。

 ケンゾウ・ヒガタ。

 ウィルフレッド・スターキー。

 娘は感謝した。自分を最後まで助けようとしてくれた父に。誰よりも先に自分の元へ来てくれた父に。彼の思い出と彼の血は、今も娘の中にあった。彼の保安官としての在り方は近隣の町を治める保安官たちの指標となり、多くの人間が尊敬する人間の名に彼を挙げた。彼は娘の、そして人々の誇りになった。

 女子供は感謝した。教会で自分たちを守ってくれたブシに。誰も彼の戦いぶりを見ていなかったが、しかし倒れていた敵の数が彼の功績を語っていた。彼の刀は磨かれ、教会の中に祀られた。そうして聖人の一人に、遠い海からやってきた一人のブシの名が加わった。刀は今も、教会の神聖な光を受けて輝いていた。彼は町の伝説となった。

 友は感謝した。短い間だが自分を讃え、付き合ってくれた彼に。型破り、何をするにも滅茶苦茶で、波乱万丈の人生を送った彼だったが、最後は立派に人々を救った。彼の功績がなければ、今頃はもっと多くの血が流れていただろうと、町の男たちは語り継いだ。彼は酒場の英雄になった。

 


 イーノック・エイムズはクラリッサと手を繋いでいた。町の丘に作られた石碑に、二人で思いを馳せた。

 二人は決意していた。二人でこの町をまた、作っていこうと。この町を守り、この町が未来へ続く道を歩き続けられるようにしようと。

 夕暮れ。

 町の片付けもひと段落し、家に戻った二人は愛を誓った。二人は夫婦になり、四人の子供をもうけた。二人は町一番の美しい夫婦になった。イーノックの脚には引き攣りが残ってしまったが、しかし町の人たちが彼を手伝った。栄えたスモールクリークの片隅で二人は暮らした。死ぬまで一緒だった。


 ヴィクター・ガーフィールドは子供たちと遊んでいた。「それ、どうやったの?」「すごい!」「もう一回見せて!」。彼は子供たちに笑顔で応えた。彼は町の人気者になった。

 やがて彼はスモールクリークで得たお金を使って大きなサーカス団を作ると、国中を回る旅に出た。サーカス団の一番の見せ物は爆発する箱からの脱出ショーだった。サイナマイトこそ使えなかったが、しかしアイディアはウィルフレッドから受け継いだものだった。

 後に、ヴィクターは稼いだお金で奨学金制度を作り、学者の卵を支援するようになった。そして国の科学技術は発展していった。ただ彼は、生涯独身を貫いた。


 ザカリー・グッドタスクは戦いが終わると早々に荷物をまとめて旅に出た。去り際、彼は「また、負け戦だったか」とつぶやいたが、誰もそれを聞かなかった。

 彼の顔は誇らしげだった。狙撃手として、兵士として、できることはやった。そして最愛の女性の幸せにも一役買った。男としてこれ以上の幸せはなかった。

 そして手元には父の小銃があった。これがあれば、他はいらない気がした。ザカリーはスモールクリークの雑貨屋で弾とオイルと布巾を買うと誰にも何も言わず歩き出した。乾いた風が彼を包んだ。

 砂漠の彼方、遥か遠くへ彼の足跡は続いていた。行先は、誰も知らなかった。


 六人の男たちの伝説は語り継がれた。六人の英雄。六つの弾丸。町を守った男たち。

 記憶が薄れないように記録が残された。

 これはそんな記録から作られた、男たちの物語。


 了

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The Six Bullets ~彼女を愛した六人の男たち~ 飯田太朗 @taroIda

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