エピローグ

 夏休み。

 俺と露那は、約束通り海に来ている。


「奏くん!見てみて!」


 露那は水着を着替え終えたらしく、それを可愛らしく俺に見せてくる。


「…あぁ、その、似合ってるな」


 露那が着ているのは、いわゆるピンク色のビキニというやつで、特段刺激が強すぎるわけではないんだろうが、露那以外の女子と交際経験の無い俺にとっては十分刺激が強かった。


「奏くん照れてるの〜?可愛い〜」


「……」


 露那の水着姿自体は、見るのが初めてなわけじゃない。

 一年前にも海ではなかったが、露那と市民プールに行ったときに露那の水着姿は見たことがあった。

 …だがあの時の露那と俺の関係性は今よりも何倍も歪だったため、俺は露那の水着姿に健全な男子高校生のように一喜一憂するなんてことはできなかったが、今は露那とも良好な関係になれている。

 つまり何が言いたいのかというと…純度百で可愛いと思ってしまう。


「…あっ」


 俺たちが更衣室から出ると、ちょうど目の前を水着姿の女の人が通りかかった。

 俺はここで一年前の光景がフラッシュバックする。


「奏くん、今私じゃない女の人の水着姿見てたよね?」


「え、見てたっていうか、普通に前を通ったからたまたま視界に入っただけで…」


「そうやって言い訳して、最終的にはみんな浮気するんだから」


 その後ものすごく怒られた記憶がある。

 だが、今の露那は…


「奏くん、ぼーっとしてるんじゃなくてもっと私のこと見て!」


 という風に、何の毒気も無くなっている。

 …本当に変わったな。


「見てるから安心してくれ」


「…えへへ」


 露那は嬉しそうに笑っている。


「私が変わるだけで、奏くんもこんなに変わってくれるんだね…こんな簡単なこと、もっと早く気づけばよかった」


「…俺ももしかするともうちょっとあの時に変われてたら、もっと早く今の関係になれたのかもしれないな」


「何言ってるの奏くん、奏くんは長い時間考えて一歩踏み出して私のことを振ってくれたんでしょ?だったらその時間を無かったことにする方が勿体無いよ」


「露那…」


 まさか露那に、振ったことを感謝される日が来るとは。

 きっと一年前の俺に言っても絶対に信じないだろうな。


「なんか湿っぽくない?せっかく海に来たんだからもっと楽しもうよ!」


「確かに、せっかくだし楽しもう!」


 俺がそう意気込んで早速と海の方に向かおうとしたところ、露那は俺のことを引き留めた。


「あ、ちょっと待って、その前にちょっとあそこ入って行かない?」


「…え?」


 露那が指さした先には、それぞれが化粧やスキンケアのために借りられる個室ルームがあった。


「あぁ、日焼け止めを塗りたいのか?」


「うん」


 確かに日焼け止めは肌に大事か。


「わかった、じゃあ俺はその辺で待ってる」


「何言ってるの、奏くんも来るんだよ」


「え、俺は別に…」


 という俺のことなんて無視して露那は俺の腕を引っ張り俺のことをその個室ルームに連れ込んだ。

 化粧やスキンケアという美容に気を遣う部屋のためなのか、中は思ったよりも綺麗だった。

 鏡とベッドが置いてある。


「ベッドは…日焼け止めを塗るためか」


 エステとかでこういうのが使われているイメージだ。


「はい奏くん、この日焼け止め私に塗って」


 露那は俺に日焼け止めだけを渡すと、そのままベッドにうつ伏せになって寝転がった。


「あ、ホック外さなきゃ」


「え」


 露那は水着の背中の部分のホックを外した。


「はい、塗っていいよ奏くん!」


「…あぁ」


 …ちょっと俺には刺激が強すぎないか?

 ていうかこれ、俺が仮にちょっとでも露那のことを転がしたりでもしたら大変なことになる。

 とはいえ俺がここで塗らないなんて言ったら変に意識してるみたいだし、それは嫌なためしっかりと塗るのは塗ろう。

 俺もベッドに腰掛け、日焼け止めを自分の手に満遍なく付けた。


「じゃあ、付けるぞ」


「うん」


 俺が日焼け止めをまとった手で露那の背中に直に触れると、露那は冷たかったのか高い声を上げた。


「んっ…!」


「つ、冷たいか?」


「だ、大丈夫」


 …別に痛いとかでは無いはずだし、続けよう。

 しばらく露那は声を抑えるような声を上げ続けていたが、それを経て露那の背中全体に日焼け止めを塗ることができた。


「大丈夫か?露那」


「うん!大丈夫!」


 もう大丈夫らしく、露那の声は元気になっている。


「奏くん、前もお願いしてもいいかな?」


「え、前って…」


「…言ってる意味、わかるよね?」


 俺はここで露那が求めていることを察する。

 …が。


「その…そういうのは、また今度家とかで…な」


「…そっか〜、う〜ん、じゃあその時は奏くんから、ね」


「…わかった」


 俺たちは、大人への第一歩となる約束をした。

 そしていざ、海で遊び。

 バシャバシャと水を掛け合ったり、浅瀬で溺れたり、砂浜でお城…をほとんど露那一人で作り上げてしまったり、そういった感じで海を存分に満喫することができた。

 そして夕暮れ。


「もう夕方だね〜、遊び疲れちゃった」


 夕暮れになるともうほとんど人は居なくなっていて、海のさざなみが定期的に当たるも、それが昼間に比べて冷たく感じる。


「奏くん」


「どうした?」


「…ずっと一緒に居ようね」


「あぁ」


「…私も奏くんにずっと好きで居てもらえるように頑張るから、奏くんも私のことずっと見ててね」


「わかった…それが彼氏だもんな」


 俺がそう言うと露那は今までの色々な感情が込み上げてきたのか俺の前で涙を流し始めた。

 でもその涙はきっと悪い意味を持つものじゃない、むしろ…


「これからもよろしくな」


「うんっ!」


 露那は涙を流しながらも笑顔を見せた。

 …その涙は、きっと今後の俺たちをこの夕暮れのように照らし続けてくれるものになるだろう。

 そんな感動的な海での出来事を終えて家に帰ってきた俺は、スマホを出してあるVtuberの配信をつける。


「運命の人に見つけてもらっちゃった、明城優那でーす!今日は彼氏と海に行ってきたので!そのお話をしようと思いまーす!」


 優那ちゃんが露那だったとしても、俺の露那に対する感情と優那ちゃんに対する感情は変わらない。

 俺の日常が、これからも好きだけで埋まっていくことを願って…これからも必死に生きていこう。

 俺は今日も最後まで、優那ちゃんの配信を楽しく見た。


『奏くん!今度は二人っきりで通話していっぱいお話しよ〜!』


 推しているVtuberが優那ちゃんで、俺は幸せ者だ。


【あとがき】


 この作品はこれにて完結とさせていただこうと思います。


 ここまでお読みくださった皆さん本当にありがとうございました。


 詳しくは近況ノートの方で語らせていただこうと思いますが、この作品をここまで読んでくださった方は、是非他の作品や2月に出そうと思っている新作品も一読いただけると物凄く嬉しいです。


 本当に、ここまで読んでくださってありがとうございました。

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推しVtuberが実はヤンデレ美少女元カノで復縁するためになんでもしてくる── 神月 @mesia15

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