大尉!ペンギンの国に帰ろう!

巨大隕石による気候変動で人類の生息域が大きく狭まった地球。地球圏の勢力は4つに分かれ混沌を極めている。隕石から採掘された金属で人型ロボットが作られ、そして巻き起こる戦争!テロ!大量破壊兵器!戦争犯罪!パンドラの匣の中ってこんな感じなんですかね。

主人公である大尉野郎ことハンス・グリム・グッドフェローは人型ロボット「アーセナル・コマンド」の乗り手(駆動者〈リンカー〉)。徹底した理性での行動により兵士の義務を果たすことを自らに課しています。しかしその理性があまりにも強固で、また彼の持つ独自の思想の背景を細かく説明せず結果的に一言足りなくなるため、口から出る言葉が冷血漢か煽りのように聞こえてしまい、相手に罵倒され誤解を受けるといったことが多く起きます。この作品は勘違いものとしての側面も備えているわけですね。いやこれ勘違いものかな?あれこれ勘違いものの面白さかな?

大尉のもう一つの側面としてクソボケ女たらしがあげられます。こいつは普段は一言足りないくせに女性への親愛の情はストレートに出し、しかも自分の魅力にまったく無自覚なため、ヒロインのシンデレラ・グレイマンを筆頭に周囲の少女を落としまくっています。このことを周囲から何度も指摘されているのですが、いっこうに自覚する気配はありません。認識阻害でもかかってるのか?

世界観は無情です。大尉は最強ですが最強が一人いるだけでは守れない命も多く、また大尉が投降を呼びかけても敵が聞くわけがなく、結果的に読者は人が大勢死ぬところを多く見ることになります。
大尉は毎回敵兵に対し投降を呼びかけますが、この際に敵兵は拒否の返答を返します。つまり台詞が発生し、ある程度のキャラ付けがなされるわけです。これが毎回抜群にうまく、読者が敵兵に少し感情移入した後に大尉が殺すので、読者の心には深い悲しみの心が残されます。いわんやメインキャラをや。タグに「かわいそうはかわいい」とありますがこれは欺瞞です。辛いのでかわいいと思う暇はありません。

作品のレビューのはずが大尉のことばかり書いてしまいました。しかし彼は実際魅力的です。鋼の理性であらんとし、それをやり遂げてしまう見ようによっては悲しき強さの中に、ぽわぽわした可愛い、無垢な一面を時折見せる。この作品は彼のそんな情緒を観測する物語と言って過言ではないと思います。
大尉の、絶望だらけのように見える社会の中にいて、それでも希望を失わずそうありたい自分を極端なまでに一貫する、という姿は、作者・読図健人氏の他作品にも共通して見られます。これは誰にも負けない、真似できない作家性だと思います。乙ロボで得られる栄養素は他作者の小説では取ることのできない唯一無二のものです。乙ロボを読んでみて、もっとほしいと思った方は読図健人氏の他作品を読んでみることをおすすめします。

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