なにやら、不思議な話
甲斐央一
背中で遊ぶモノ
――実話です。あくまでも個人的に不思議な話――
当時、我が家には四人で住んでいた。私と妻。それと次女が孫を連れて住んでいた。
孫は男の子で二歳九ヵ月ともなると、一端の言葉を使ってくるから面白い。
当然私の事は「ジィジ」妻は「バァバ」娘は「ママ」と呼んでいた。至って何処にでもある、パパが居ない最近ではよくある普通の家庭だ。
――ある日の朝の事――
いつも通り、朝八時二十分に娘は孫を連れて家を出る。孫は近所に在る保育園へ。その後、娘は仕事場へ。
その日は、小説のネタを昨夜遅くまで書いていた為か、目覚めが悪かった。八時過ぎに目が覚めたのだが、ベッドで寝そべったままTVを見ていた。下の階ではいつもの事で、孫が保育園へ行く準備でドタドタと騒がしい。
ちなみに、私は今日はお休みの日だ。ゆっくりするぞ。
途端にスマホのメールの音がする。枕元のスマホを手に取り、ベッドにうつ伏せの状態でスマホを開いた。
下の階で孫の声がする。今日も元気そうで何よりだ。
「ジィジ~ジィジ~……」
いつもなら、「行ってらっしゃい」と孫に声を掛けるのだが、スマホが気になって黙ってスマホをいじり始めた。
「――カチャ…… 」孫と娘が玄関のドアを閉めた音がした途端、うつ伏せ状態の私の腰にナニカ軽い物が乗りかかった。例えるなら、ポワ~ンと。
へっ?……なんだ?何が腰に乗っているのか?……
と後ろを見ようとするも、体が動かない。
あれ? まさか、こんな朝から金縛りか? しかも両目は開いているぞ。首は動くけれど、後ろが見えない。体も、上向きにしようとするが、動かない。横になる事も出来ない。腕下というか脇から下が動かない、ちょっと変な金縛り状態だ。なんで? どうした?
――何だ? どうした? これは一体、何が起きているのか?――
軽くパニックになっていると、腰に乗っていたナニカは腰の上で跳ねだした。そう、子供が腰に乗って、お尻を浮かしてピョンピョンする様な感じだ。ヤメテクレ~、人の腰で遊ぶんじゃない。オイ、お前は、誰だ?一体なにモンだ?――そこは遊び場じゃないんだから……
何だ? 何が起きているんだ。私は目ぼけてないぞ? 首を右に振れば、TVでコロナの話をしているし、スマホを見れば、カクヨムでの数少ないコメントがある。しかし、首と両手しか動かない。不安は有るが、どうしたものか恐怖感は全く感じられなかったのだ。
思い切って左腕を斜め後ろに回し、手が届きそうな小窓のカーテンを開けてみた。
途端に日の光が部屋に入って部屋を照らす。ついでに腰の辺りで遊んでいるナニカを、勇気を振り絞って左手で掴もうとしてみた。
「
その瞬間、私の腰にのってピヨンピヨンしていたナニカは、今度は背中におぶさる様に倒れてきた。パタンと、音もしないのに背中にナニカが倒れる。そう、まさに背中にオンブされるように……そんな感じがした。
――ヒエェー……もしかして、おんぶオバケ?――
さすがに少しヤバいのではないか? 一階にいる妻を大声で呼ぼうか?と考えたが、止めた。ビックリはしているのだが、全くの恐怖感が感じられないのだ。これは悪意が無いヤツだろう。と、なぜか冷静な自分に驚いた。
動く両腕を布団から出して、背中と腰の方に、後ろに手を回してみた。
「
鳥肌も立たないし、いやな汗も出ない。頭はパニックから戻り、少し冷静に回っている。しかし、いつまでも此のままでいる訳にはいけない。昔、何かの気配を感じたら、柏手を打て! って同じ会社の人から聞いた事がある。そういえば、あの人は夜勤の時、設備のフロアの奥の怪しい雰囲気のする周辺で‟パン・パン”と、よく手を叩いていたではないか。
あれ? 柏手って、何回打つの? よく、聞いておけば良かった。確か、神社に参拝の時は、二礼二拍手一礼だから、二回か?……まぁ、良く分らないから、オマケにもう一発打ってしまえ――
かろうじて動く両手を、うつ伏せの状態で柏手を三回打った。
『『『――パン・パン・パン――』』』
途端に、背中に乗っているナニカの気配が瞬く間に消え去った。
状況が変わった事に我に帰り、ようやく動くようになった体を起こし、部屋のカーテンを全て開けた。ついでに窓も全開にした――
時は十二月初旬。震えが来るほどの冷たい風が部屋を吹き抜けた。
了
なにやら、不思議な話 甲斐央一 @kaiami358
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