一番怖かった話
甲斐央一
一番怖かった金縛り
金縛り
「金縛り」とは一体? 人はストレスが溜まったり、体が疲れている時になりやすい!って言ってますが、一体何なんでしょうか?
世の中には、見えてはいけないモノが見える人が、居るとか居ないとか。私は見えませんが、何気に視野の端にそんなモノが見える、いや感じる時が、年に何回か物凄く低い回数で感じたりする時が有ります。
「金縛り」も何度も経験しています。最初は中学二年生ぐらいで、田舎の実家の母屋の自分の部屋。会社の仮眠室で20代の時にも経験有りますし、それ以後田舎の実家の離れでも、今住んでいる市内の自宅でも数回有ります。
――その中でも一番怖かった金縛り――
20代の当時、実家に離れを建てもらい、1階が駐車場。2階に八畳二間の部屋が在りました。
その一部屋を自分が使っていました。私の身長が180cm近く有り、寝相が悪いので、ダブルベッドが一台。TVとガラスのテーブルの他は、足元の壁がクローゼットになっている程度。他に千円程度のマンガを入れておくカラーボックスが二つ。小さい冷蔵庫一台。その程度の物しか有りませんでした。至ってシンプル。
――とある、日の事――
下着で寝ていたので、多分夏だと思います。高校卒業後から入社した会社での交代制勤務。不規則な就業時間。夜勤の為、明るい昼に寝ないといけない一種の強迫観念によって大幅にストレスが溜まっていく。20代の時はそんなストレスを発散するべく、パチンコとゴルフにハマっていました。
当時の私の部屋にはエアコンなんて高価な物は有るはずも無く、日中は取りあえず暑かった。夜勤が有る為、窓全開・扇風機フル回転で日中は寝ていました。
しかしながら、実家は田舎。しかも立地は田んぼの中のポツンと一軒家。
だから、夏の夜は窓を全開にして網戸で寝ていました。ポツンと一軒家だから、風がよく通る。東西南北から、好きなように勝手に風が家の中を吹き抜けていく。夏でも夜になると、寒いぐらい涼しかったのを覚えています。
――その日は休みでした――
夜中に嫌な気配で急に目が覚めた。当時、スマホなど無い時代。枕元のベッドに備え付けられている小さなランプを点けようとした。
途端、体が動かない。頭も動かない。声も出せない。明かりを点けようとした腕さえも動かせない。部屋に張り詰めた苦しい緊張感が、体の上から押さえつけられる。
“何だ、これは?ダメだ。今、目を開けたらヤバいかもしれない……夢か?夢なら早く、覚めてくれー……”
そんな事を考えていたら、更に体中に上からとんでもない力で押さえつけられた。全く、動けない。動かない。
“ウワッ~……誰か?……タスケテー……”
【グイ…】
そうすると、右足の足首を引っ張られた。
“何だ?……なにが……”
【グイ……】
更に、もう一度足を引っ張られた。ベッドの足元側は、クローゼットがある。
クローゼットの中に引きずりこまれるのか?
汗が全身から噴き出しているのが分かる。ビショビショだ。この汗は、ヤバい時に出る変な汗だ……運動の時に出る汗じゃない……
【グイ………】
もうダメだ。何処かに連れて行かれるかも知れない。右足は引っ張られているのか、真っ直ぐな足の状態だ。方や左足は、膝が曲がって床に着いている。左足が床に着いているが、踏ん張れない。それに両手でベッドのシーツを掴んではいるが、意味が無い。体はベッドの下へ下へと引きずられていく。もはや、頭はパニック状態だ。
“ナンマイダブ、ナンマイダブ……南無阿弥陀仏・南無阿弥陀仏……何妙法蓮華経・何妙法蓮華経……神さま……誰か、お願いします……タスケテー………“
と声が出せないので、心の中で叫んでいた。
途端。右足を掴む力が解けた。力の開放だ。
今だ。とばかりに体が動くので、落ちた足をベッドに戻し、ベッドの中心で丸まった。勿論タオルケットを掛けて包まった。震えが止まらない。汗で体中が気持ち悪い。部屋の空気もあのままだ。重くて嫌な雰囲気だ。
早く、早く、朝日よ昇れ。頼む……お願いします……
ただ、祈る様にその思いで震えていた。どれ位の時間が経ったのか分からないでいた。未だ、部屋の中のプレッシャーは消えない。
【コケッコッコー】
と、我が家で飼っている烏骨鶏の一鳴きで、部屋の空気が変わったのに気が付いた。
「た、た、たすかった~……」
全身の筋肉が一気に緩んでいくのを感じた。
あれは、一体何だったのだろう?
あのまま足を引き掴んで、私をどこに連れて行こうとしていたのでしょうか?
了
一番怖かった話 甲斐央一 @kaiami358
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