一緒に覚えていて欲しい記憶がここにある

自分の私的なことを他人に公開しなければならない理由が分からない、といった内容のエッセイに関する考えを目にしたばかりだった。今の世の中、これはこれで正しいと思う。それでも私は今日もエッセイを読む。なぜか。その確かな理由のひとつがこの作品にはある。
ひとの記憶は曖昧で、どんなに大切なことでも時と共に風化していくのは避けられない。それでも、忘れてほしくないこと、忘れてはいけないことはこの世に確かに存在する。それを綴ったのが本作品。私たちと同じ市井のひとの言葉だからこそ殊に大切に思う。こういう言葉の積み重ねに静かに寄り添いたい。記憶の風化に抗いたい。今日という日にこの作品を出された作者様と共に。