OLのチカは、憧れの先輩ダイシと両思いになり結婚の約束を交わす。しかし時は近未来、ウイルス感染対策が今よりももっと徹底された時代。当たり前のことなのかもしれないが、一つの言葉がチカにグサッと刺さるのだ。「キス禁止で」だってさ。
このレビューのタイトルなのですが。「女性らしい」という言葉を使ってよいものかどうか迷ったのです。ほら、世にはジェンダーフリー的な思想もあるではないですか。そのなかでこの言葉を使ってよいものかどうかと。
しかしながらですが、「女性らしさ」というのは本短編の特徴の一つであるため、やはりこの言葉をタイトルにしようと決意しました。
チカは「キス禁止」と言われたことに対して悩みます。辛い、悩む、なんでなんでキスしたいよう。そんな感じで苦しむのです。この「キスしたいよう」の気持ちは、超個人的にですが「女性らしいなぁ」「かわいいなぁ」と感じられるのです。男性が「キスしたいよう」なーんて連呼して悶絶しても、(それはそれでかわいいかもしれませんが笑)、様にはならないですよね。この「キスしたいよう」の思いのたいせつさと、そこから醸し出されるキュートさは女性ならではだと思うのです。創作作品においては、特にです。
筆者はこの女性の感性を非常に自然に、そして的確に表現している。このチカのかわいさが本作の読みどころの一つであると感じられるのです。男性読者は「かわいいなぁ」とニンマリし、女性読者は「わかるわかる」と共感する。この短編の特徴は「女性らしさ」でありながら、男性も女性もこころから楽しめる作風に仕上がっているのです。
ウイルスというギミックが利いていますが、「両思い相手の人とキスできない」という状況はいくつか考えられますね。たとえば相手が海外勤務に出ているとか、実家のお手伝いの関係で長期不在にしているとか、お互いに同時代に巡り会えるよう数億回のタイムリープを繰り返しているとか。……あれ? 最後のはないかな? あれ?
この物語は、触れ合うことのできない、でも大好きな人がいる、その状況を表現しているのです。そしてそこで生じる、二人の悩みを。だからぜひ、ヒューマンドラマというか、こころの動きの部分も楽しんでいただければと思います。作者はこころの動きについて、高い感受性をもって表現できる書き手です。
全体的にほんわかとした、温かいお話でした。サンクス!
題名のウェディング・ベールは花嫁の象徴であり、結婚式をロマンチックに仕上げてくれます。特にベールアップ。花婿がベールを挙げる行為には、新郎新婦を隔てている壁をなくすという意味があります。二人の幸せを思い、ドキドキしてしまう瞬間です。けれど、この物語の世界観は、コロナ禍の現在よりも厳しいものでした。
チカは憧れの先輩と晴れて両思いに。キスもスキンシップもしたいのに、感染症のせいで密着できない。そんな切ない恋心が丁寧に描かれ、のたうち回りたくなります。だって耐えられない瞬間は多々あるはずだもの。
普通の交際と比べれば制約がたくさんあるし、ずっとマスクを着けなければいけない。恨めしいこの世界が、薔薇色に色づく日は来るのでしょうか。
ベールには、邪悪なものから守るという意味もあるそうです。この物語が、コロナ禍における幸せな魔除けとなりますように♡