エピローグ

「……まだ慣れないわねぇ」


 レナは自分の家の壁に寄りかかり、左腕の感触を確かめていた。


「レナ、もう少しでできるぞ」


 アイリが家から出てきてレナの横で立ち止まると、壁に寄りかかった。


「左腕の調子はどうだ?」


 レナは左手の手首を左右に軽く振り「ちょっと魔力を吸い取られすぎだわ、王宮技師の人、ちゃんとやってくれたのかしら?」と愚痴るように答えた。


「まぁそういうな、そもそもその義手は特別なものだ、この国の技術では残念だけど限界がある」


 レナの義手は貿易商に頼み込んで世界一といわれる魔導技術大国の特注品を仕入れてもらったものだった。アイリーンにより破壊された義手を、最初は鍛冶屋に持って行ったが、仕組みがさっぱり分からないと言われ、修理が出来なかった。


 アイリの伝手で王宮技師に修理を依頼したのだが、王宮技師といえどもさすがに扱いも難しかったのだろう、王宮技師が意地になり、三日三晩徹夜で無理やり修理したのだった。


「まぁ仕方ないわね、魔力を吸うだけの動かない義手よりは全然いいわ! 料理ができないと私発狂しちゃうもん、アイリこそ傷の具合はどう?」


 アイリは先日の蜘蛛によってダメージを受けた個所に包帯を巻いていた。


「まぁ回復は順調だな、ティナにハイポーションを作ってもらおうと思ったんだが、あれ以来どうもうまくいかないみたいだな」


 ティナはあれ以来ハイポーションの作成に成功していなかった。あの時作れたのはリサを想うティナの意志が軌跡を起こしたのかもしれない。


「奇跡ってところかしら」


 レナはため息混じりにつぶやいた。


「ねぇ、アイリーンさんは……」


 レナは言いづらそうにアイリに尋ねる。


「あいつの処分は保留になった。急に人が変わったようになってな、竜人化の治療薬の研究に明け暮れてるさ、優秀な研究者だったようでな、国としても簡単に手放したくはないんだろう、色々制限はかかるだろうけどな」


 レナは「そっか」というと安堵した。


 アイリーンのしたことは最悪の場合、国家反逆罪として扱われてもおかしくなかった。それがどうゆう形であれ、もう一度やり直す機会が与えられたことに胸を撫で下ろした。


 すると、家の扉が開かれた。


「レナ、アイリ、準備が出来た」


 アズサが扉から顔を出して言った。


「おぉ! ごちそうだぁ!」


 アイリはなぜか腕を回しながら家の中に入っていった。


 家の中に入ると、ティナがすでに椅子に座っていた。ダンとエナもいる。


「ダン! あんたいったい何してたのよ! 大変だったんだから、手伝ってくれてもよかったのに」


 レナがダンに問い詰めるとダンは頭をかいた。


「悪い、こっちも大変でな、アジトに戻ったら壊滅状態だ、幸い死んだ奴はいなかったからよかったが、一旦はティナをこの家から避難させてアジトでかくまったはよかったが、あの女アジトにまで手を出してきたようでな」


「そ、その件ではご迷惑を」


 ティナはダンに深々と頭を下げた。


「いや、悪いのはティナじゃない、本当に無事でよかった」


「ティナちゃんごめんね、わたしすぐティナちゃんを助けに向かったんだけど……どこにいけばいいのか分からなくてどこにもいなくて……」


 エナは申し訳なさそうにうつむいた。


「ううん、エナちゃんも怪我しているのに、ありがと」


 ティナはエナに向けて笑顔で答えた。


「よし! できたぞー!」


 調理場からリサの声が聞こえた。


 リサとアズサは次々と料理をテーブルに運んで行った。


 運ばれてきたのはクリームシチューにサラダの盛り合わせ、焼きたてのふわふわパン、そしてアズサとリサが選んだお酒。しかし、今日のメインディッシュは――。


「これ……」


 ティナは料理を見て懐かしそうな顔をしている。


「食べてみてくれないか」


 リサにそういわれ、ティナはその料理を一口サイズに切り口に運んだ。


「ティナ、どうかな?」


 リサは不安そうな顔でティナに尋ねた。


 ティナはその味をじっくりと味わうように噛み、そして飲み込んだ。


「おいしい……お母さんの味、お母さんのハンバーグ……ありがとう、おねえちゃん」


 リサはその言葉を聞くと、目じりを指で軽くこすり、そして。


「よかったぁ」


 と満面の笑みで答えた。




「この肉、もしかして」


 ダンは気になったのか一口ハンバーグを食べたようだ。


「分かる? この前のストーンドラゴンよ、母さんはティナの誕生日が近くなると貿易商から買ってたみたいね」


 レナは懐かしむように言った。


 リサとティナは懐かしむようにハンバーグをほおばっている。


 アズサはそんな二人を見ながらレナに向かって言った。


「あの時、ワタシの見た未来ではリサは助からなかった。でもティナはワタシの見た未来を自分の力で変えてきた。凄いポーションクリエイターになるかも」


「そうかもしれないわね」


 レナは視線を移すと満面の笑みを浮かべるティナがいた。


「家族か、いいものだな」


 アイリはグラスにお酒を入れ、中身をくるくると遊ばせながらつぶやいた。


「私がずっと、取り戻したかったものよ」


 レナはリサとティナの二人を見ながらつぶやいた。


 レナの瞳には、固く結ばれた姉妹の絆が映っていた。




(了)



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隻腕のドラゴンイーター ~赤髪の少女と姉妹の絆~ 森山郷 @moriyama_kyo

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