おまけ小説・江戸の漫画家浮世絵師!

 江戸の世は太平の世と呼ばれますが、そこには様々な人々が生きていて、悲喜こもごもが沢山あります。



「日本橋さん、おとーちゃんがこれ持ってけって」

 何でアタシがって感じで若い娘が握り飯を運び、長屋の端にある浮世絵師の家を訪ねる。


「ああ、すまねー、すまねー、大家さん所の娘さん」

 日本橋と呼ばれた浮世絵師は仕事をしていて徹夜明けとばかりに「ボサボサ」の頭で扉を開ける。


「まーどうして浮世絵師何てモンは夜まで働くかね、目が悪くなっちまうよ!!」

 そう言うと大家の娘は「ずけずけ」と九尺二間くしゃくにけん(約2.7m×約3.6m)の四畳半に上り込みせっせと片付けを始める。


「本当にすまねーな……、俺は絵しか描けん男だから頑張って描くしかねーんだ……」

 せっせと働く大家の娘を見て何も出来ない自分を恥じる。


「これじゃアンタの嫁になる女は目が当てられないね!」

 大家の娘は浮世絵師の顔も見ず黙々と働く。


「すまねー……」

 浮世絵師はうなだれる。


「いいから飯食っちまいな! 片付きゃしないよ!!」

 大家の娘はうだうだ言いながらも畳を硬く絞った雑巾を使い掃除まで始めて帰る気配が全く無い。



 ……これもしかしてツンデレなんじゃ?



「なんだって!!」


「俺は何も言ってないよ!!」



 すいません……。



「いいから飯食ったら出掛けるんだよ!」


「出かける?? 何処に?」


「なんだい? アンタ貰うもんだけ貰ってお返しもしないのかい?」

 掃除のお世話を終えて仁王立ちの娘は不満顔だ。


「ああ、そうだな、何処か上手い茶屋にでも行くか?」

 あれ? なんだか浮世絵師から誘ってる風だが明らかな誘導だ。


「仕方ないねぇ、準備するから握り飯ちゃんと食って待ってな♪」

 娘は足取り軽く化粧をしに大家の住む家へと戻った。



「生きてりゃ良い事あるさ……」

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江戸の警察岡っ引き! 山岡咲美 @sakumi

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