第7話 対決


「逃げて…は、早く……早く~~!」


 つむぎが逃げるように言っても、花には紬が空中浮遊しているようにしか見えないので緊迫感が伝わらない。

 かけるに至っては、悪霊の禍々まがまがしさが以前より増していたので腰を抜かしてる。


「どうなってるかわからないけど、ヤンキー君、出番よ! ビビってないでなんとかしなさい!」

「ビビってねぇし」

「さっき『うっきゃあぁ』とか言ってたじゃん。怖いんでしょ? ヤンキーのくせに度胸のないヤツね」

「うっ。怖くねぇし」


 ここまで挑発されては、ヤンキー設定を続けている翔もやるしかない。翔は震える足を叩きながら前に出た。


「テメェ! パイセンを離しやがれ!!」


 そして、大きな声を出して恐怖を追い払う。


『オンナ、オレノ。オトコ、チカヅクナ』


 すると悪霊がおぞましい声で返答したので、翔はギギギっと振り返った。


「喋ったんすけど……」

「あたしには聞こえないけど、悪霊なんだからそんなこともあるでしょ」

「ちょっ、押すな押すな」


 翔と花が揉めていると、悪霊が一本の腕を伸ばして翔の左手を掴む。


『オレノ、トル、コロス』

「うっきゃああぁぁ!」


 悪霊にいきなり腕を掴まれたからには、翔はまた悲鳴。しかし、空手でつちかった体はその危機に反応する。

 翔は左手を力強く回して悪霊の手を振り払おうとしたのだ。だが、これでは悪霊の手が伸びただけなのですぐさま作戦変更。右手で手刀を入れて、左手は腕を回してから肘打ちを落とす。


「透き通って行くんすけど……」

「お、黄金の、左……」

「あっ!」


 いきなりの事で翔はうっかりミス。悪霊が腕を直接握って来たから、霊に触れられるのは左足だけだというのを忘れていたので、紬の弱々しい声でその事に気付く。


『シネ』


 翔が蹴る体勢に入る前に悪霊は凄い力で翔の腕を引き、自身の腕をムチのようにしならせてベランダ側の窓に投げ捨てた。


「ぐはっ……」


 その結果、翔は窓を突き破り、道を挟んだ家の壁に打ち付けられた。


「キャーー!? な、何これ…何がどうなってるの……」


 ここでようやく花にも悪霊の恐怖が伝わる。翔が何かに引っ張られて飛んで行ったのだから、へたりこんでも仕方がない。


「花…逃げて。お願い……」


 紬が声を出した瞬間、外から大声が聞こえる。


「オラ~! クソ悪霊が~! 相手になってやんよ! 表出ろやオラ~~!!」


 翔だ。頭から血を流す翔が、悪霊に啖呵たんかを切ったのであった……

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