第4話 ボールの正体


「あれは一月ひとつき前……」


 そもそもつむぎはその美貌もさることながら、誰にでも分け隔てなく優しいので老若男女からモテモテ。年上から年下、男から女までラブレターや告白が週に何度もあり、その都度断ってやり過ごしていた。

 クラスメートからも告白された事もあったが、そこは紬から嫌われたくないからか一定の距離を保ち、紬を守るという役割を持って関係を切らないようにしていた。


 そんなある日、上級生のイケテナイグループの男が困っていたところを紬が助ける。こんな事は紬に取ってはいつものこと。しかし男に取っては初めての事で、惚れてもうた。

 その男がどうしていいかわからずストーカーに発展して、紬のクラスメートから近付くなと警告を受ける。

 紬はその報告を受けて男には付き合えないと真摯に断りを入れたのだが、それがトドメとなって、男は飛び下り自殺で亡くなった。


 この事は結構な事件となりイジメを疑われたらしいが、誰もが男の行為が悪いと証言して幕引きとなった。


 騒ぎが落ち着いた頃、紬は事件の発端を作った事は間違いなく自分だと考えていたので、男の家に謝罪に向かった。

 そこで涙ながらに謝罪すると、男の両親もこんな美女を泣かせているので「息子とは釣り合いが取れないのに何してるんだか」と簡単に許してくれた。


 問題はこのあと。男の家をあとにした紬の左足に、奇妙な重みが発生したのだ。

 この日は気のせいかと思っていたのだが日に日に全身が重くなり、ついにその時が来た。


 鏡に悪霊が映ったのだ。


 紬は恐怖に震えて錯乱し、心配した両親が病院や霊能者の元へ連れて行ったのだが、解決の糸口すら見付からない。

 しかし霊能者の中には本物がいたので、悪霊の正体を知る事となる。


 最初は飛び下りた男の霊。その霊が悪霊となり、次々に同じ境遇の霊を呼び寄せて、大きな悪霊になったと教えてくれたのだ。

 もちろんその霊能者に除霊を頼んだのだが、失敗に終わる。これほど強い悪霊では、その霊能者では払う事ができないどころか大怪我を負った。


 それからも霊能者を探しては除霊を頼むが、本物はビビって何もしてくれない。偽物だけが何かしていたらしいが、まったく効果はなかったそうだ。



「マジもんじゃん!?」


 紬から話を聞き終えた翔は、驚くしかできない。


「あはは。凄いでしょ? 私もこんな世界があるなんて知らなかったよ~」


 それなのに紬はあっけらかんと笑っているので、翔も心配になる。


「てか、そんなの連れてて体は大丈夫なんすか?」

「めちゃくちゃ重いよ~。でも、まぁ、私の招いたことだから……」

「そっすか……」


 紬の顔は笑っているが、その顔は翔には無理しているように見えた。


「俺が除霊ってのができたらいいのに」

「無理しなくていいよ。ずっと震えてるってことは我慢してるんでしょ? 話を聞いてくれただけでも嬉しかったよ」


 翔の体は正直。紬の顔もたまにしか見ないのでは、怖がっているのはバレバレだ。


「ちなみになんすけど、俺が蹴り飛ばしていた物って、パイセンにはハッキリ見えてたりするんすか?」

「見えてるけど……聞くの?」


 紬が含みを持たせてそんな事を言うが、翔は聞くしかない。


「俺も気になってたんで、好きに言ってくれっす!」


 翔の覚悟に、紬は少し悩んでから答えを告げる。


「私が見た限りでは……」

「うっす!」

「お婆ちゃんとお爺ちゃんばかりだったね」

「は?」

「お年寄りね。たぶん、死んでから成仏できずにさまよってたんじゃないかな?」

「お、俺……ババアやジジイを蹴飛ばしてたんすか!?」


 新事実。まさかボールの正体が老人の霊だと知って、翔は驚きを隠せないのであったとさ。

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