第5話 カポエイラの真相
「あははは。私も最初は驚いたよ~。お爺ちゃんやお婆ちゃんの顔を容赦なく蹴ってたんだも~ん」
「蹴ってた場所、顔だったんすか!?」
「でも、あれで成仏してるみたいだから結果オーライじゃない?」
「いや、絵面ヤバくないっすか?」
「うん。かなり。ヤンキーパネーって思った。あはははは」
「ふざけて言わないでくださいっすよ~」
紬がふざけても罪悪感からは逃れられない翔。いちおう詳しく聞くと、幽霊の顔が地面にあったのは幽霊は浮遊していて無重力状態なので、上や下、左右もわからないのではないかと紬の予想。
なんなら地面から顔だけ出して体は完全に埋まっている幽霊もいるらしく、物体を素通りできるから幽霊は楽しんでいるのではないかと語っていた。
「じゃあ、なんで俺のとこに集まって来るんすか?」
「それは成仏したいからじゃないかな? 道に迷っていたら、光があったから群がるみたいな」
「まるで街灯に集まる蛾みたいっすね」
「たしかにね~。あはははは」
「冗談なんすけど……」
仏様に対して翔のほうが常識的。紬がケラケラと笑うので「この人、本当に困ってるのかな?」とか思っている。
「私からも聞いていい? どうして逆立ちしてたの?」
「ああ。アレっすか。数が多いとあっちのほうが楽なんすよ」
「どういうこと?」
「俺が触れられるのは左足だけなんす。だから、浮いてあるボールを蹴りやすいんす」
「ふ~ん……黄金の左ってヤツね!」
「なんすかそれ」
いきなりビシッと決められても翔はよくわかってない模様。スルーされた紬も恥ずかしいみたいだ。
会話が途切れ、翔はいたたまれない雰囲気を打開しようと話題を探していたら、紬は少し離れてから振り向いた。
「それでどうかな……ちょっとは怖いの
どうやらここまでは紬の策略。面白おかしく会話して翔の恐怖を和らげ、悪霊を取り払ってもらおうと考えていたようだ。
「少しは……てか、パイセンも困ってるんすよね?」
翔もその事に気付き、この日初めて紬の顔を真正面から見た。その顔は声とは裏腹に、精気が薄れているように見える。
「そうね……いなくなったらありがたいな~」
弱々しくニッコリ微笑む紬を見た翔も、男を見せるしかない。
「わかったっす。蹴るっす!」
腕を回し、大きく息を吐いて左足を後ろに。腰を落として構えを取った翔は、自分を鼓舞するかのように叫ぶ。
「いくぞ! きええぇぇ~!」
その瞬間、紬は両手の指を胸の前で組み、目を閉じて祈りを捧げた。
次の瞬間には、翔の飛び蹴りが悪霊に炸裂……
「うっきゃああぁぁ!」
せずに、悪霊と目の合った翔は飛んで逃げて行ったのであった。
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