第6話 親友登場


 つむぎと悪霊から逃げ出したその日の放課後、学校の玄関から外に出ようとしたその時、かけるの背中に衝撃が走った。


「ってぇな~。何すんだオラッ!」


 そこそこの勢いだったので翔は前回り受け身を取って振り返ったら、そこには短髪の女子が立っていた。


「あんたが紬に何かしたってのはわれてんのよ! 紬にあやまんなさい!」


 いきなり翔にドロップキックを喰らわした女子は、松井花。翔が凄んでも花はそれ以上の剣幕で捲し立てて来た。


「ああん。俺がパイセンに何したっつんだ」

「ドアを壊した事を紬のせいにしたでしょ! 先生に怒られたって、顔を真っ青にしてたんだからね!」

「んなもんしるか。俺のせいって言えば全て丸く収まる事だろ」

「そうよ! だからチクリに行こうとしたけど、紬に止められたの! あんなに真っ青な紬初めて見たわ。いったいあんたは何をして脅しているのよ!!」

「だからしらねぇよ。てか、あんたパイセンのなんなんだよ」


 押し問答が面倒臭くなった翔は、あきらかにテンションダウン。


「あたしは紬の親友よ!」

「ふ~ん……一個上っすか。ちっさいすね」

「どこ見てんのよ! このけだもの!」


 翔は花の身長と胸元のリボンの色を見ていただけなのだが、花は勘違いして胸を押さえていた。


「てか、パイセンの顔が青いのって、アレのせいじゃ……」


 翔が独り言を呟くと、花が驚愕の表情を浮かべる。


「はい? もしかして、紬が同じ境遇の王子様に出会ったって言ってたの……あんたのこと!?」

「王子様ってなんすか?」

「ないわ~。ヤンキーが王子様って、ないわ~」


 翔がいくら質問しても、花は「ないわ~」と言い続けるのであったとさ。



「そんじゃあ行こっか?」


 なんだかんだで和解した花は、翔を連れて歩き出した。


「行くって……どこにっすか?」

「紬の家よ。ヤンキー君って、悪霊倒せるんでしょ? 行くよ!」

「ちょっ! 何言ってるんすか!」


 花が有無を言わさず翔の手を握るので、女子と手を繋いだことのない翔は言いなりになる。そうして無理矢理紬の家まで連行された翔は、その雰囲気にビビって花の手を振り払った。


「どったの??」

「玉城パイセン……こんな家に住んでるんすか?」

「あんた、毎日来たらダメだからね!」

「ちげぇっすよ」


 花がストーカーみたいな目で見るので翔は説明する。


「ここ、なんつうか、得体の知れない雰囲気っつうか……」

「あ~。幽霊屋敷みたいな感じってこと? やっぱ見える人は違うね。あたしじゃ全然わかんないや」

「これ、入っちゃダメなヤツっすよ」

「何ビビってんのよ。ヤンキーでしょ。行くよ」

「ビ、ビビってねぇし」


 本当はビビっているのに、花に挑発されたからにはこの答えしかできない翔。


「やっぱビビってんじゃん」

「ビビってねぇし。パイセンこそ、勝手に入っていいのかよ」


 花の背中にピッタリくっついているのだから、翔がビビっているのはバレバレ。しかし自分の家のように勝手に入って行くので、翔もツッコまざるを得ないようだ。


「紬~? 入るよ~?」


 いちおう声を掛けて入っていたので、花は紬の部屋の前でも一声掛けたのだが、中から思っていたのと違った答えが返って来る。


「ダ、ダメ……来ちゃダメ~~!」


 それは、紬の悲鳴のような声。しかしそんな声を聞かされては、花は黙っているわけにはいかない。


「紬! どうしたの!?」


 ドアを「バーン!」と開けた花は、中の様子を見て息を飲む。


「な、なんで浮いてるの……」


 花には紬が宙に浮いているように見え……


「うっきゃああぁぁ!!」


 翔には悪霊が紬を殺そうとしているように見えた……

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る